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zoom RSS アメリカコアジサシ成鳥夏羽170611茨城県

<<   作成日時 : 2017/07/30 00:58   >>

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Least Tern breeding 170611 Japan.
コアジサシとアメリカコアジサシは同所的に分布しないため、両種の識別点について詳述した図鑑や文献はほとんどなかった。2017年6月11日、茨城県でアメリカコアジサシを観察、撮影した。コアジサシとアメリカコアジサシとの差異について記す。

分類
アメリカコアジサシ Sternula antillarum は、コアジサシに極めて似た北米の小形アジサシである。フランスの博物学者ルネ・ルソン(Rene Lesson)により、1847年にSternula antillarumとして記載された。タイプ産地はカリブ海小アンティル諸島のフランス領土グアドループ島。
パラスがコアジサシを記載したのが1764年なので、その84年後に新しい種と認められたことになる。それでも今から170年も前だ。
ところが、差異が小さいため、コアジサシの北アメリカ産亜種とされる。さらに、属名も当初のSternulaではなくSterna(アジサシ属)が長く使われることになる。HBW(1996)も日本鳥類目録(2012)も、ほとんどの図鑑もSternaとしている。
近年、鳴き声の違いがもとになり、改めて亜種から種に昇格した。また、Bridge et al (2005)のミトコンドリアDNA分子系統学的研究によりSternaが単系統でないことが判明した。HBW Aliveではその結果が反映されて、ルソンが記載した当時のSternula が復活している。
HBW(1996)では、「コアジサシ、アラビアコアジサシ、アマゾンアジサシ、ペルーアジサシとともに上種(superspecies)を構成する」と記されている。種が亜種の集まりであるように、上種は半種の集まりである。したがって定義上、アメリカコアジサシとコアジサシはそれぞれ半種である。
フツイマ(1986)によれば、種分化の中間的ステージにある側所的あるいは同所的集団が半種である。アメリカコアジサシはコアジサシと洋の東西に分け隔てられており、側所的あるいは同所的とはいえない。この意味で両種を半種とするのは適切でない。半種でないなら、上種を構成する、は適切でない。
マイアーは、種か亜種か決められない個体群を半種とした。一方、イギリスの進化生物学者アーサー・ケインは、種と上種の間の補助的な階級を半種とした。半種はこのように曖昧で混乱のもとになる概念であるためか、今ではほとんど死語になっている。半種が使われないなら、上種も使わないのが適当だろう。
Aliveでは適切にも、端的に「コアジサシ、アラビアコアジサシ、アマゾンアジサシ、ペルーアジサシに近縁」と改められた。Bridgeら(2005)(前掲)によれば、コアジサシとヒメアジサシ、アメリカコアジサシとアマゾンアジサシがそれぞれ姉妹種である。それぞれが分岐したのが約200万年前、4種の共通の祖先が分化したのが約300万年前である。

分布と亜種
北アメリカの太平洋沿岸、内陸部、大西洋沿岸に分布し、太平洋沿岸のS.a.browni、内陸部のS.a.athalasson、そして大西洋沿岸の基亜種、の3亜種が認められている。亜種間の形態的な差異は少ない。HBWによれば、S.a.browniは、上面の灰色がより濃く、下面の白が灰色味がかり、しばしば嘴の先の黒を欠く。
Draheim et al(2010)によるミトコンドリアDNAとマイクロサテライトDNAの分子系統学的研究では、3亜種に対応する明確な遺伝的構造は見出されなかった。一方で、亜種をまたいで遺伝的構造が見出された。これは分散行動の雌雄差によると考えられた。
2014年7月18日、茂田氏(山階鳥類研究所HPアメリカコアジサシの日本初記録)により、茨城県でのコアジサシの標識調査中にアメリカコアジサシが偶然捕獲された。亜種は、ノースダコタで装着された足環から、S.a.athalassonの可能性が高い。2016年と2017年にも茨城県で観察されたアメリカコアジサシの亜種はやはり14年個体同様S.a.athalassonであろうか、撮影された画像以外判断材料はない。

文献による識別点
HBWによると、コアジサシとは、上尾筒と尾羽が灰色であること(コアジサシは白)、コンタクト・コール(地鳴き)が2音節であること、により識別可能である。全長、質量ともアメリカコアジサシの方がやや小さいがかなりのオーバーラップがある。質量は平均で5%の違いである。
Chandler & Wilds(1994)によれば、頭部のパターンはほぼ同じで、翼のパターンも同様であるが、冬羽への換羽はアメリカコアジサシの方が早い。サイズの差は、翼長:163mm<178mm、嘴:28mm<29.4mm、テール・フォーク:40.7mm>38.6mm、フ蹠:15.3mm<16.7mm(いずれもアメリカコアジサシ-コアジサシの順)であり、翼、嘴、フ蹠が短く、尾が長いことがわかる。
Pyle et al(2001)は、外側初列風切のパターンでは識別できないが、P4〜P7の内弁のblack shadingがアメリカコアジサシの方がより顕著であるとしている。
日本の図鑑では初めてアメリカコアジサシが野鳥図鑑670第2版で掲載された。外側初列の羽軸がコアジサシでは白いがアメリカで白くならないとしている。

野外での識別
私は2017年6月11日に3時間観察した(すべて飛翔中)。
まず、その異質な声で発見できた。HBVでは、2音節(ダイシラビック)としているコールだが、私には2音に分解できず、ただギーと濁って聞こえた。ただしコアジサシの声との違いは明らかなので、声がすれば発見は容易い。
しばらく見ていると声を出さなくても見分けられるようになった。特に曇天を背景に飛ぶ鳥を後方から見ると、コアジサシは白く浮き出るのに対して、アメリカコアジサシでは空の灰色に溶け込むように見える。これはコアジサシの上尾筒から尾が白であるのに対して、アメリカコアジサシでは灰色であることによる。
1時間もしないうちにはっきりコアジサシと識別が可能になった。アメリカコアジサシが現れるとあたりで一斉にシャッター音が響いたことから、少なからぬカメラマンも容易に識別できていたと思われる。
よく見ると大きさの差もわかる。アメリカコアジサシの方が一回り小さい。若い個体のせいか最外側尾羽が短かったことが、小さく見えた原因の可能性がある。いずれにしても、小ささだけでコアジサシと識別するのは難しい。
頭部や嘴に違いは見られなかった。2016個体、2017個体とも嘴の先の黒は小さいが、個体差でありコアジサシとの識別点にはならない。ネット上の画像を見ると先の黒の多いアメリカコアジサシは普通である。初列風切のパターンの差異は、少なくとも飛翔中は識別するのは困難であった。特に飛翔を見上げると翼下面が見えることが多く、下面の違いは微妙である。

初列風切のパターン
昨年茨城県で観察された2016年個体では、初列風切の外3枚が黒色であったのに対して、今回の2017年個体は外2枚が黒であった。そのため、昨年の個体こそがアメリカコアジサシであるのに対して、今年の個体をアメリカコアジサシと断定することに躊躇する撮影者が少なからずいたようだ。アメリカコアジサシとアジサシとの雑種を疑う観察者もいる。そこでアメリカコアジサシの初列がどう記載されているか確認する。
まずは手元にあるシブリーのガイド(2000)に当たってみる。初列2枚暗色、と明記している。画像検索してみると、黒2枚が多いようだが3枚も見られる。
Renaudier & Claessens(2014)によれば、成鳥では黒2枚が典型的であり、例外的に3枚もあるが、これは齢に関係している可能性がある。3枚から2枚に成鳥とともに黒が減る傾向にあるのかもしれない。幼鳥は6枚が暗色と記す。
アジサシでも黒3枚は見られるので、枚数でコアジサシとアメリカコアジサシを識別することはできないと思われる。
ネット上の2016個体、そして今回私が撮影した2017年個体の初列を見る限り、初列の黒はコアジサシより明らかに濃く、白い翼とのコントラストが明瞭であった。羽軸も黒く見える。コアジサシの黒はアメリカコアジサシに比べれば濃い灰色と表現でき、羽軸も白っぽく見える。ただし、この差異が決定的と断定はできない。コアジサシにも少ないながらも黒っぽく見えるものがいる。さらに、アメリカコアジサシにも、黒が薄く見えるものや、羽軸が白っぽく見えるものがネット上で見られる。もしかすると、アメリカコアジサシの亜種で、外側初列と羽軸の黒さや黒の枚数に違いが見られるかもしれない。大形カモメの初列の黒の多寡が生育環境と相関するので、例えば、内陸のアメリカコアジサシの初列はより濃い、等あり得る。

まとめ
茂田氏(前掲)によれば「野外観察で本種の渡来に気づくことは難しいと考えられ」る。2014年以前、日本で観察例がなかったことからも識別は容易いとはいえない。しかし、識別点が明確になれば識別はさほど困難ではない。野外では、鳴き声と上尾筒の違いで識別可能である。画像では初列の黒が識別の参考になりえる。
ちょうど、カナダカモメの識別点がはっきりされてから、多くのウォッチャーが自力でセグロカモメと識別できるようになったように、アメリカコアジサシはコアジサシから識別可能である。
以下、アメリカコアジサシ2017年個体(茨城県)とコアジサシの飛翔画像を比較する。

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Fig.1 Least Tern (upper) and Little Tern 170611/170703 Japan.
アメリカコアジサシ(上):外側初列風切の黒が顕著。羽軸は白くない。上尾筒から尾が灰色。外側尾羽は淡色で基部は白に近い。コアジサシ(下):外側初列は濃い灰色。上尾筒と尾は白。頭部や嘴のパターンに違いはない。

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Fig.2 Least(upper)/Little Terns breeding 170611 Japan.

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Fig.3 Least(upper)/Little Terns breeding 170611/170703 Japan.
下面はほとんど差がない。

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Fig.4 Least(upper three images)/Little Terns breeding 170611/170703 Japan.
後方から見たこの角度の時が最も違いが明瞭になる。上尾筒から尾が、アメリカコアジサシでは灰色で空に溶け込んで見えるのに対して、コアジサシでは白で浮き出て見える。

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Fig.5 Least(upper two images)/Little Terns breeding 170611/170703 Japan.
初列の黒の枚数は識別点にならない。黒2枚と3枚はアメリカコアジサシ、コアジサシとも見られる。初列の黒さはアメリカコアジサシの方が濃く、羽軸も黒いので、画像では識別の助けになる。しかし決定的とはいえない。
このコアジサシの初列は、黒が3枚で濃さも濃い。こうしたアメリカコアジサシ2016年個体のような初列のパターンのコアジサシは少ないながらも見られる。

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Fig.6 Primary pattern of Least Tern 170611 Japan.
2017個体の外側初列はP9-P10の2枚が黒。その羽軸も黒いが角度によってはやや薄く見える。翼を広げると、P10の内弁が白であることがわかる。画像によっては、P7の羽軸も黒く見える。Pyleら(前掲)が指摘している、アメリカコアジサシで顕著なP4〜P7の内弁のblack shadingについては、画像で見る限り、コアジサシとの有意な差は確認できなかった。

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Fig.7 Tail of Least Tern 170611 Japan.
尾は、コアジサシでは白色であるのに対して、アメリカコアジサシでは体部上面同様の灰色である。中央に比べて外側でやや薄く、露出オーヴァーで白く飛ぶことがある。2017年個体は、最外側尾羽が長くない。尾のフォークはコアジサシより長いとされるので、若い個体かもしれない。

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ヤナギムシクイは輪状種ではない!?(U)
承前 輪状種とは何か チワワからグレート・デーンまで、イヌの品種を大きさの順に隣の犬種とのみ交配できるように1列につなぐ。チワワからグレート・デーンまで途切れることなく両隣同士の犬種は交配可能である。だからこそイヌは1種とされる。それを大きな池の周囲に、列の両端、即ちチワワとグレート・デーンが接するように整列させてイヌの輪を作る。イヌの輪は交配を通じて遺伝子が交換される。ただ1か所、遺伝子の交流が絶たれる切目ができる。チワワとグレート・デーンは体格が違い過ぎて自然交配ができないから。 ... ...続きを見る
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