英語では、complex(複合体)とかassemblage(集合体)とか、もっと単純にgroup(群)とか、研究者ごとに別の表記をしています。
ショウジョウバエ、タテジマフジツボ、カスミサンショウウオ-トウホクサンショウウオ、ヒヒ(ヒヒの分類は極めて面白くカモメの分類にも通じるものを感じます)、そしてこのトノサマガエルなど、いろいろな生物種で、種群があります。けれども、種ですら、その定義は定まっていないありさまですから、この種群なる語も、使用者の数だけ定義がある状態です。
バーダーで最も気になるcomplexは、なんといってもherring gull complexです。これでどれだけ論文が生産されたでしょうか。herring gull complexの訳語は今のところ定まっていませんが、「セグロカモメ種群」が一番しっくりするのではないかと思います。
これを煮詰めるために、あちこちの種群を集めています。
トウキョウダルマガエル070614印旛沼。
緑の個体。繁殖期でもトノサマガエルのように♂に黄色の婚姻色がでないので、♂か♀かは不明です。
背の黒斑が繋がらないのがトウキョウダルマの特徴です。形態は、トノサマガエルとトウキョウダルマガエルの亜種ダルマガエル(両生類図鑑では、亜種は、鳥の場合のようには亜種名の頭に「亜種」をつけませんが、ちゃんと附けたほうがつまらない誤解を減らせると思います)との中間です。
さて、トノサマガエル種群です。
松井正文著『両生類の進化』によれば、トノサマガエル種群には、トノサマガエル、トウキョウダルマガエル、トウキョウダルマガエルの亜種ダルマガエル名古屋種族、トウキョウダルマガエルの亜種ダルマガエル岡山種族が含まれます。
亜種ダルマガエルの名古屋種族と岡山種族は、『5日本動物大百科』を見ると、鳴き声が異なる。多分鳴き声は種認知に大きく関わると思うので、そのうち別種になるかもしれません。
進化生物学の大御所エルンスト・マイヤーの"Animal species and evolition"(1963)には、地理的種分化の項のサーキュラー・オヴァーラップ(輪状種・環状種)の例として、セグロカモメやシジュウカラとともに、なんと極東のこのトノサマガエルが挙げられていて感動したことを覚えています。しかし残念ながら、現在の生物学では、そこで取り上げられた例のほとんどすべてが否定されています。
トノサマガエル種群は、セグロカモメ種群同様、輪状種ではありません。
トノサマガエル種群の種分化の過程は、山渓の『日本のカエル』にあります。
1)トノサマとトウキョウダルマの共通の祖先が、氷河期で大陸と日本列島が繋がったとき日本に渡り、間氷期に日本に孤立した個体群が大陸の個体群と分化する。
2)富士箱根火山帯の形成によって、トウキョウダルマとダルマが地理的に隔離され、分化する。
3)再び訪れた氷期で大陸と繋がり、大陸から新しく移住した個体群がトノサマになる。
以上のようにトノサマガエル種群の種分化にはいずれの段階にも、地理的隔離があります。いずれ詳しく扱う予定ですが、輪状種の形成には定義上、地理的隔離は関与しません。というか、地理的隔離は輪状種を否定する条件です。
輪状種や種群についての関連エントリーをご覧ください。
http://seichoudoku.at.webry.info/200608/article_65.html
http://seichoudoku.at.webry.info/200702/article_24.html
http://seichoudoku.at.webry.info/200612/article_14.html
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