モグラの分類(追記070717)

日本のモグラMogera woguraは50年位前は、6亜種(コ、ヤクシマ、アズマ、キュウシュウ、コウベ、サド)を含む多型種と考えられていました(このうち3亜種を認めたのが黒田長礼です。長礼は山階鳥研の元所長の長久のお父さんで、カンムリツクシガモの発見者)。
今では複数の隠蔽種の集まりと考えられていて、6亜種のうち、ヤクシマ、アズマ、コウベ(Mogera wogura)、サドは種とされています。
種のスプリットは、核型分析でもアロザイムでも分子系統学でもなく形態分類学がきっかけを作りました。
今泉吉典著『分類から進化論へ』(1991)平凡社によると、コウベモグラ、アズマモグラ、コモグラは頭骨のクラインがそれぞれ異なるので(それと分布の分析から)、別種と考えるのが妥当です。
縦軸が頭骨長、横軸が生息地の1月の平均気温の図にデータをプロットすると、3本の直線が引けます(実は、p135の図を見ると必ずしもそうは見えないのですが)。コウベはアズマより傾きが大きい。簡単にいうと、コウベのほうが、寒いと急激に大型化する。より顕著に、ベルクマンの規則に沿っているということです。
傾きの差は、環境に対する代謝のシステムの差であり、それは遺伝子に支配されている。直線上の個体(群)はしたがって同一の遺伝子を持っている、すなわち単系統群となる(ようです)。
今泉はコモグラも別種としています。これは今でもアズマモグラの亜種とするのが一般的です。アズマとの中間個体が見つかる、ということは交雑していると考えられる、ならば、マイヤーの生物学的種概念により種とは認められない。
しかし、今泉は生物学的種概念による種の定義は万能ではないと考えています。たとえ交雑が起ころうとコモグラは彼によれば種なのです。
さて、コモグラの分類は今後どうなるのでしょうか。楽しみです(モグラについての分子系統学的研究がどこまで進んでいるのか確認していません)。

画像

アズマモグラ070708手賀沼。
昨年もほぼ同じ時期、同じ場所でモグラを見つけています。偶然でしょうか。

これまでのモグラのエントリーです。
http://seichoudoku.at.webry.info/200607/article_31.html
http://seichoudoku.at.webry.info/200606/article_16.html

ベルクマンの規則については次のエントリーをどうぞ。
http://seichoudoku.at.webry.info/200707/article_4.html
http://seichoudoku.at.webry.info/200612/article_14.html

『分類から進化論へ』についてひとこと。
お話しとしては面白いし、反証可能な仮説を提出しているという意味で科学的でもあるのですが、現代の生物学の常識からはかなりずれています。後続の研究がほとんどないので、形態による分類学最後の花(あだ花?)かも。

追記070717:川道・朝日編『現代の哺乳類学』(1991)朝倉書店で阿部永は、今泉のモグラの分類に触れて、「多要因による変異を認めず、ベルクマンの法則に合致する単一現象だけで説明しようとして恣意的な処置を行うことは、種内変異全体の理解(種認識)を誤らせる」と記しています。やはりベルクマンの規則だけで分類を行うには無理があるようです。今泉の分類は核型分析にも合致しない、と続けています。

ハタネズミやヒミズでは、南にいくほど大型化するなど、ベルクマンの規則には例外が多く、「最近の理論的研究は自然資源の季節変動幅の大小が、体の大きさに重大な影響をもたらすことを予測している」そうです。自然資源は種により異なるので、ベルクマンの規則の例外も合理的に説明がつきます。

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