Mystery Calidris 雑種(ヒバリシギxハマシギ)と思われる小形シギ090817千葉県

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Mystery Calidris, possible hybrid Long-toed Stint x Dunlin juvenile with Wood Sandpiper or White Wagtail 090817 Chiba, Japan.
This small Calidris resembles Long-toed Stint in size, structure, and behavior, but has a longer, darker, slightly decurved bill, relatively heavier breast streaks ( compared with juvenile Long-toed), and slightly longer primary projection, recalling small "Cox's Sandpiper”.
雑種(ヒバリシギxハマシギ)と思われる小型シギ幼羽(とタカブシギ、ハクセキレイ)090817千葉県。

2009年8月17日早朝、千葉県の水の入った休耕田でヒバリシギに似た奇妙な小型シギを観察した。この個体の特徴を満たす既存の種は無いように思われた。あえてあげれば小型のCox's Sandpiper か。以下考察する。

該当する種がない
大きさはヒバリシギと同じくらいか僅かに大きく、足が黄緑で中趾がふしょと同じくらい長く、ちょこまかとせわしなく餌を漁る姿はやはりヒバリシギを思わせるが、基部が太く長くて先やや曲がった黒い嘴はヒバリとは似ても似つかぬものだった。ぴったりする種は思いつかなかった。長く黒い嘴、アメリカウズラシギほどではないが濃い胸の縦斑から、Cox's Sandpiper がすぐさま脳裏をよぎったが、なんせ小さすぎる。Cox's Sandpiper については後述する。本個体は比較的新鮮な幼羽と思われるので、以下の比較は幼羽で行っている。
ヒメハマシギとは、足が黄緑色で長いところ、中趾が長いところが異なる。
アメリカヒバリシギとは、足と中趾が長いところ、嘴が黒く長いところ、体型がすらっとしているところ、羽衣の色合いに赤味が少ないところ等が異なる。
アメリカウズラシギとは、大きさが小さいところ、胸の縦斑と腹の白の境は比較的はっきりしてはいるものの、より上方にあるところ、嘴が基部まで黒い、中趾が長いところ等が異なる。
ヒメウズラシギとは、足が黄緑色で長いところ、中趾が長いところ、嘴が長く曲がっているところが異なる。初列風切は、ヒバリシギよりは長いが、ヒメウズラシギほどは長くない。
コシジロウズラシギとは、腰が白くないところ、足が黄緑色で長いところ、中趾が長いところ、初列がさほど長くないところが異なる。
ハマシギとは、大きさが小さいところ、腹に斑点がないところ、足が黄緑色で長いところ、中趾が長いところが異なる。
サルハマシギとは、大きさが小さいところ、腰が白くないところ、足が黄緑色で中趾が長いところが異なる。

ヒバリシギでもない
大きさや行動(ちょこまかとした歩行)、足が黄緑で中趾が長いところはヒバシシギに合致するが、嘴が決定的に異なる。細部を検討するとヒバリシギ幼羽とは少なからず違うことがわかる。以下に差異を思いつくままに列挙する。
1)嘴が長く太く基部まで黒い。先が曲がる。ハマシギ様(サルハマシギのように均等には曲がっていない)。嘴を下から見ると先がやや膨らんで見える。
2)眉斑とアイリングが不明瞭。副眉斑なし。目先の白が目立たない。
3)目の位置がヒバリのように前にない。上下方向でもやや上にあるようだ。目の大きさは少し小さめ。のんびりした感じがハマシギを思い起こさせる。
4)頸、胸の縦斑がより密でその下の白との境界が比較的はっきりしている。
5)中雨覆の羽縁の先のところが白く膨らんでいない。ヒメウズラ様。
6)大雨覆と三列の羽縁が直線的でない。アメリカヒバリ様?
7)初列の三列からの突出がある。P9が見えている。しかしヒメウズラほど出てはいない。
8)翼下面が白っぽい。
9)翼帯が明瞭である。
10)声を飛び立つ際に2度聞いたが、「ビュルッ」とハマシギに似たものだった。
11)動画および画像2の採食行動を見ると、嘴を泥に深く差し込んでいる。これはハマシギに近い。ヒバリは表面をついばむことが多い。
総合的に判断すれば、これら複数の差異はヒバリシギの個体差の範囲を超えていると思われる。特に嘴の違いは決定的か。

"Cox's Sandpiper”とは
Parkerにより1982年に、独立した種Calidris Paramelanotosとして記載されたが、1996年、ChristidisらのミトコンドリアDNAとアロザイムの解析によって、アメリカウズラシギ♂とサルハマシギ♀の雑種と判明した。オーストラリアで冬羽(一部夏羽に換羽)が捕獲、観察されているが、夏羽や幼羽はほとんど例がない。
幼羽は不明だが冬羽と共通と思われる特徴として(Haymanらの"Shorebirds”による)、
1)大きさはハマシギよりやや大きい。
2)嘴は黒く長い。すこし下に曲がる。
3)翼帯が目立つ。
4)上尾筒、腰の横の白が目立つ。
5)足は黄色か黄緑色。
6)胸の斑と下の白の境界はアメリカウズラほどは明瞭でない。
7)初列風切は尾を少し越える(この特徴のみウィキペディアより)。
ウィキペディアによれば、確認された幼羽は2個体のみで、そのうち一つは2001年茨城で観察されている。

今回の個体がCox'sではないと思われるところ。
1)多きさがヒバリシギくらいで小さ過ぎる。
2)中趾がふしょと同程度に長い。
3)嘴のカーヴの仕方がハマシギ的である。
4)雨覆、三列のパターン等サルハマ的なところがほとんどない。
特に1)、2)は決定的か。ヒバリシギの血が入っていると考えざるを得ない?

Cox'sに類似した種に、"Cooper's Sandpiper”がある。独立種C.cooperiと記載されたが、現在はサルハマシギとウズラシギの雑種とされる(HBW)。本個体とCooper'sに特徴的な共通点はないと思われる。

茨城01年個体、三重07年個体との比較
本個体と類似する不明シギは日本でこれまで少なくとも2個体観察されている。
1)2001年8月25日、茨城県で観察された個体。これは数少ないCox'sの幼羽とされている。
2001年8月25日,茨城県稲敷市で観察された不明シギ (氏原道昭氏)
Juvenile Calidris Hybrid ?The mystery sandpiper; similar to "Cox's Sandpiper"?????(Stint Fan)
2)2007年8月20日、三重県で観察された個体。これはヒバリシギと何かの雑種、またはCox'sの幼羽とされている。
Mystery "Calidris"(SHORE BIRDS IN JAPAN)

さて、茨城01、三重07、そして今回の千葉09を比較するとそれぞれ違いはあるものの、この3例にはきわめて興味深い共通点がある。
1)時期がいずれも8月下旬である。
2)いずれも幼羽である。
3)嘴は長く少し下にカーヴし、基部まで黒い。基部は太め。
4)胸の斑はアメリカウズラシギ的ではあるが、境はより上方で不鮮明である。
5)眉斑は不鮮明である。
以上、偶然の一致では済まされないと思われる。3例に共通する、交雑個体特有の形質発現のメカニズムを想像させる。

ただし、茨城01はやや異質である。三重07、千葉09と違うと思われるところ(あくまで画像からの印象)。
1)アメリカウズラシギよりやや小さい、すなわちヒバリシギよりは大きい(と思われる)。
2)初列風切が比較的短い(千葉09は三列風切から明らかに出ている(P9が見える))。
3)足がより細長い。
4)中趾が長くない。これは決定的か?
5)三列風切の羽縁のパターンが直線的である。
この違いが、親の種の違いに由来するのかは不明。共通点の多さを考慮すれば、無関係とするのは不自然と思われる。そうかといって、由来が同一ともいいにくい。

三重07と千葉09はほぼ同様の特徴を持っていると思われる。
1)大きさが同じくらいである。
2)三列からの初列の突出は、ヒバリシギよりは長く、サルハマシギより短い。
3)中趾が長い。
4)三列のパターンが直線的ではない。

三重07と千葉09の違う点は、
1)千葉09の嘴はより長く、基部がより太い。
2)三重07では肩羽に赤褐色味が少ない。
3)雨覆の羽軸が千葉09で、より明瞭。
同一種内でもこれくらいの個体差はあるかもしれない。したがって、三重07個体と、千葉09個体は同一の由来、もしくはきわめて近縁とするのが妥当と感じる。

ヒバリシギと何の交雑個体か?
体の大きさや足の黄緑色、長い(ふしょと同程度)中趾等から片親のヒバリシギの可能性は高いと思われる。ただし、両親にない形質が交雑により現れないことは完全には否定できない。
もう一方の親は何だろう。
HBWによれば、シギの雑種は複数の例がある。Cox'sやCooper's以外にも、
サルハマシギxコシジロウズラシギ
ハマシギxミユビシギ
ハマシギxムラサキハマシギ
ヒメウズラシギxコモンシギ
ヨーロッパトウネンxオジロトウネン
などがあるという。
気付くことは、両者の分布域に重複または接触があること、ハマシギに2例あること、属間でも交雑する(ヒメウズラxコモン)等である。
さて、片親はヒバリシギと仮定して、もう一方の親を想像してみたい。
まず形質面から。頭部のジズはハマシギが近い。嘴の形態、色のみならず、目の位置や、羽衣のパターンも類似していると思う。ハマシギの頭に挿げ替えたヒバリシギの第一印象と一致している。
ヒバリシギの分布は、他のシギ類の多くが北極海に面した寒帯であるのに対して、亜寒帯でかつ限定的であるため、分布域の重複する種はほとんどない。例外が、まさにハマシギで、コリャーク丘陵や千島列島等で重複している(HBW)。チシマシギの分布も重なるが、形態、生態の違いから、交雑相手の候補にはならない。
交雑の可能性のあるハマシギの亜種は、Calidris alpina kistchinskiiであろうか。
ヒメハマシギは北米産だから可能性は低いだろう。アメリカウズラシギとサルハマシギはユーラシアでも寒帯に分布し、ヒバリシギと接触する可能性はあまりないと思われる。

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Mystery Calidris, possible hybrid Long-toed Stint x Dunlin juvenile with Little Ringed Plover 090821 Chiba, Japan.
White underwing and white wingbar recall Dunlin, though toes projection beyond the tail-tip is similar to Long-toed Stint.
雑種(ヒバリシギxハマシギ)と思われる小型シギ幼羽(とコチドリ)090821千葉県。翼下面が白っぽいこと、翼帯がはっきりしていることは、ヒバリシギよりハマシギ的である。尾から趾が出て見えるのは、ヒバリシギ(とサルハマシギ)の特徴である。この3つの画像はIさんが撮影した(管理人がトリミングしています)。画像を提供くださったIさんに感謝いたします。

結論
以上の考察から、本個体は、ヒバリシギとハマシギの交雑個体と思われる。
ヒバリシギの最大個体(16cm、37g)とハマシギの最小個体(16cm、33g)はほぼ同じ大きさである(ただし亜種は無視)。ディスプレイの受容や種認識の境界は不明だが、交尾が物理的に不可能とは思えない。ハマシギは♂のほうが小さいので、ヒバリシギの♀がハマシギ♂をチョイスしたのかもしれない。繁殖期はハマシギでは、北部で6月から7月上旬、ヒバリシギの分布と重なる南部で4月下旬から5月、一方のヒバリシギでは、6月上旬から7月である。この差は埋められるものだろうか?
雑種と思われるシギが00年代に少なくとも3例あることを考えると、今後も同様の個体が日本で観察されると思われる。本件は、それらを検討する際の足場を提供するだろう。


追加のリンク100815:
OZOK氏の2005年1月沖縄の個体
OZOK氏の2005年10月沖縄の個体
David Sibley氏の2010年2月タイの個体

追加リンク101028:
風の色を探しに・・・

追加のリンク110810:
ネイチャーBBS
2011年7月30日、大野一郎氏撮影の石川県の個体。夏羽。羽衣はヒバリシギ夏羽に近いが、嘴はヒバリシギにしては長い。眼も小さい。腹の縦斑もヒバリでは見ない。
このBBSへの本ブログ管理人の書き込みを以下引用する。
頭部のジズ、嘴の形態と大きさ、体の大きさ、腹の黒い縦斑などヒバリシギの個体差を逸脱していると感じます。やはり千葉個体と同様のタイプでしょう。
何より石川個体(石川県で撮影されたのでしょうか?)が衝撃的なのは夏羽であることです。このタイプにしろCoxにしろ夏羽の画像はないと思います。なのでこれは極めて貴重な記録です。夏羽個体がいるとなると、繁殖の可能性がでてきます。
両性が存在し、このタイプの個体同士(アソータティヴ・メイティングまたは調和配偶)が番えば種分化が起こりうる。新種になるということです。ヒバリシギと交配すれば、よりヒバリっぽい個体が生じるでしょう。仮にこのタイプが雑種ヒバリシギxハマシギとすると、ハマシギの遺伝子がヒバリシギに浸透します(遺伝子浸透)。雑種がヒバリと繰り返し交配(戻し交配)すると、ハマシギの遺伝子は50%、25%、12.5%と半減していきます。結果ゲノムの一部だけハマシギの、ヒバリシギができます。
遺伝子は一般に優性の法則にしたがいます。両親のどちらかの形質が現れる。しかし不完全優性(中間雑種)も普通に起こります。この場合両親の中間の形質となる。たとえば羽衣のパターンを決める遺伝子は、ヒバリの遺伝子が優性、嘴の長さを決める遺伝子は中間雑種、採食行動を司る遺伝子はハマシギの遺伝子が優性など各遺伝子ごとに発現に差が出ると思われます。したがって、雑種の形質を予測するのはかなり難しいと思われます。雑種の両親の種を形質のみから決めることはきわめて困難、というか遺伝子を解析する以外不可能なのですが、類推することはある程度可能ですし、捕まえないで真相に肉薄することは野鳥観察の醍醐味だと思います。


加筆追加110812: 「ヒバリシギでもない」の3)加筆、11)追加。
追記110813:  ネイチャーBBSの書き込みを引用した。

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