雑種アライソシギxオバシギと思われる中形シギ141018千葉県(Ⅰ)

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Fig.1 MVⅠ①-③Possible Surfbird x Great Knot hybrid 'Surfknot' molting juvenile 20014/10/18 Chiba pref Japan.
This unique sandpiper possesses mosaic characters between Surfbird and Great Knot. The body size, structure, behavior, and habitat like Great Knot. However, the short bill with orange base, yellow legs, cpnspicious wingbar, and black subterminal band on a white tail mostly fit Surfbird.
2014年10月18日、千葉県の干潟でユニークなオバシギに似た中形シギを、4羽のオバシギ幼鳥、1羽のコオバシギ成鳥夏羽、当該シギの混群中に観察した(10月7日の初認から12月27日まで断続的に観察されている)。大きさ、形態的特徴、生態から一見オバシギに見えるが、オバシギでは通常見られないアライソシギ的な特徴がいくつかある。検討すべき対象種、首と足の短い中形シギは、オバシギ(その個体変異)、コオバシギ(個体変異)、アライソシギ(個体変異)、雑種アライシギxオバシギ、アライソシギxコオバシギ、オバシギxコオバシギ、あと新種である。

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Fig.2 MVⅡ①-③ Possible Surfbird x Great Knot hybrid molting juvenile with Great & Red Knots 20014/10/18 Chiba pref Japan.
動画開始から15秒から19秒まで右から左に通過する個体が当該シギ。画像2①②は右が当該個体。画像2③は右該当シギ、中央前コオバ、中央後オバ、右オバ。体のサイズはコオバシギより大きく、オバシギとほぼ同程度かやや小さい。足はオバシギよりやや短い。
全長(以下すべての計測値はHayman et al (1986)による)では、コオバ230-250mm≒アライソ235-255mm<オバ260-280mmであり、オバは他の2種より有意に大きい。当該シギはコオバ、アライソにしてはサイズが大きすぎると思われる。
跗蹠は、コオバ27-33mm≒アライソ29-32mm<オバ32-38mmであり、若干オーヴァーラップはあるがオバシギが他の2種より長い。該当個体はオバシギにしてはやや足が短いかもしれない。
嘴峰は、アライソ22-27mm<コオバ29-38mm<オバ39-47mmで、オーヴァーラップはない。該当シギはオバシギより短く、コオバと同程度に見えた。基部はオバ、コオバより太く、アライソ的だが、アライソにしてはやや細いと思われる。

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Fig.3 ①②Possible Surfbird x Great Knot hybrid molting juvenile / ③-⑥Great Knots / ⑦⑧Red Knots 20014/10/18 Chiba pref Japan. (⑧のみ030830茨城県)
次に嘴の形態と色彩を比較する。アライソシギの嘴は直線的で短く、基部が太い。その形状はキョウジョシギやチドリ類を髣髴させる。下嘴の基部は半分程度が黄色からオレンジ色である。コオバシギは直線的だが、アライソほど基部は太くなく、黄色もない。オバシギの嘴は長く下に少し曲がっており、基部はやはりアライソほど太くはない。基部の黄色は普通ないが、shorebirds-wadersさんのSHORE BIRDS IN JAPANに下嘴基部が黄色いオバシギの画像があるが、たとえあってもわずかである。当該個体の嘴は直線的で、下嘴基部に広く黄色部がありアライソ的だが、基部はアライソほど太くはない。アライソシギの嘴の形がキョウジョシギのそれに似ているのは、生息地(磯)と採餌の共通性により収斂した結果と思われる。
頭部のjizzは、嘴を除いてもオバ、コオバとはかなり異なる。頭部の形態、目の位置と大きさ、目頭と目尻を結ぶ線と嘴の会合線の成す角等が微妙に違うためと思われる。こうした頭部の印象はアライソシギに見られる特徴と関係している思われる。

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Fig.4 ①Possible Surfbird x Great Knot hybrid molting juvenile / ② with Great Knots 2014/10/18 Chiba pref Japan.
②は左から2番目が当該個体でそれ以外はオバシギ。足の色は、アライソは黄色、コオバはオリーヴ緑色で幼鳥は黄色味がある。オバは緑灰色。画像2②、4②のように、当該個体はオバ、コオバとは明らかに異なり黄色だが、画像4①を見ると、嘴の黄色がオレンジを帯びているのに対して、足の黄色には緑味のトーンが幾分あるように見える。これはアライソの形質に、オバもしくはコオバの形質が影響していると考えることができるかもしれない。

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Fig.5 ①Possible Surfbird x Great Knot hybrid molting juvenile / ②-⑤ Great Knots molting juvenile / ⑥Red Knot juvenile 2014/10/18 Chiba pref Japan.
雨覆のパターンはどうだろう。アライソの雨覆は、白色羽縁が狭く、細いサブターミナルバンドがある。コオバのパターンはアライソに近いが、白色羽縁はアライソよりやや広く、サブターミナルバンドはより明瞭である。オバの白色羽縁もアライソより広い。オバのサブターミナルバンドは羽軸辺りで太くそれ以外の部分は不明瞭である。軸斑が目につくものオバの特徴である。当該個体の雨覆のパターンは独特である。白色羽縁が細いのはアライソ的である。オバに比べ黒っぽく見える理由のひとつがこれである。サブターミナルバンドは中央辺りで目につくが周辺では不明瞭である。サブターミナルバンドの内側にはオバ②-④、コオバでは見られない(または目立たない)1対の白斑がある。これはアライソに見られない特徴である。しかしオバ⑤では見られるのでこの白はやはりオバの形質だろう。軸斑が目立つのはどちらかといえばオバ的か。ただオバの軸斑より広いのでより暗色に見える。雨覆のパターンはこのようにアライソとオバの中間的あるいはモザイク的な面がある。
肩羽は当該個体では第1回冬羽に換羽している。アライソの冬羽はメリケンキアシシギのような暗灰色で、オバ、コオバより濃い。Sibley図鑑では同様な環境で見られるメリケンキアシとアライソが同一ページに掲載されているが、羽色の共通性は偶然ではなく磯での保護色のための収斂かもしれない。該当個体の肩羽の羽色はオバより明らかに濃く、アライソ的である。肩羽の軸斑はアライソでは不明瞭であるが、オバでは明瞭である。当該シギは比較的明瞭に見えるので、どちらかといえばオバ的か。
三列風切幼羽の羽縁から内側に入るノッチはオバの特徴だが該当個体には見られない。

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Fig.6 ①②Possible Surfbird x Great Knot hybrid molting juvenile / ③④ Great Knots molting juvenile 2014/10/18 Chiba pref Japan.
大雨覆と初列(大)雨覆の先の白色斑が形作る翼帯がアライソ、オバ、コオバとも見られるが、アライソの翼帯が広く最も顕著である。当該個体の翼帯はオバのそれより広くアライソ的である(アライソと同程度かやや狭いかもしれない)。

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Fig.7 ①Possible Surfbird x Great Knot hybrid molting juvenile / ②③ Great Knots molting juvenile 2014/10/18 Chiba pref Japan.
腋羽は、アライソシギでは無斑で白、オバシギでは羽縁が白くその内側に淡灰褐色のサブターミナルバンドがある。コオバにもよりはっきりしたオバ同様のパターンがある。画像7①で当該個体の腋羽が次列風切の左側に覗いているが、無斑で白い。それに対して7②③のようにオバでは腋羽にパターンが出ている。腋羽はアライソの特徴を備えていることがわかる。

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Fig.8 ①-③Possible Surfbird x Great Knot hybrid molting juvenile / ④-⑥ Great Knots molting juvenile 2014/10/18 Chiba pref Japan.
上尾筒は、アライソでは無斑で白色、オバでは白に若干の縦斑、コオバではうろこ状の比較的明瞭なパターンが見られる。当該シギの上尾筒はアライソ同様無斑白である。
尾は特に3種に差が出る部分である。アライソには尾の先に明瞭な黒いテールバンドが見られる。外側尾羽では基部の白が広くなるので、尾を広げるとバンドは台形に見える。オバシギの尾は全体的に灰褐色で中央辺りで濃くなっている。コオバでは目につくパターンは見られない。当該個体は黒いテールバンドが目立ち、外側基部で白が広くなっておりアライソのパターンとなっている。

行動とハビタットはどうだろう。アライソの非繁殖期の生息地は主にその名が示すように磯である。磯のそばの砂浜で見られることもあるが泥質の干潟では見られないようだ。主にフジツボやイガイを食べる。アライソの太く短い嘴、暗色の羽色、短い足等、オバ、コオバに見られない形質はいずれも黒っぽい岩場でフジツボをかじり取ることに適応した結果と思われる。オバ、コオバは干潟で主に二枚貝を食べる。
当該シギはオバ、コオバと共に干潟で小さいアサリを捕食していた。こうした生態はアライソには合致しない。

各種の検討。まずコオバ。嘴の形と長さは対象3種の中で最も近いかもしれない。しかし、嘴基部の黄色、暗色の肩羽、細く明瞭なサブターミナルバンドのない雨覆、白い上尾筒、黒いテールバンド、黄色い足などコオバで説明できない形質が多く、個体変異では到底説明できないので候補からまず除外できる。
次にアライソ。嘴が短く、基部が黄色いこと、肩羽が暗灰色であること、明瞭な翼帯がある、上尾筒が白色で尾に明瞭な黒帯がある、足がやや短く黄色いこと等アライソ的なところが少なからずある。一方で、体が大きすぎる、嘴はアライソにしては基部の太さが足らない、足もアライソにしては長く、黄色にわずかに緑がかっている、雨覆のパターンが異なる、生態が異なる、等アライソで説明できないところがある。これらの差異は個体差の範囲を超えているように感じる。
当該シギの全体的なjizz、生態はオバそのものといってよいほどであり、オバシギの群れの中で特に違和感がなく、おそらく多くのウォッチャーやカメラマンによってオバシギと認識されていたであろうことからして、このシギは他の2種よりオバシギに近いところにあるだろう。しかし、各部分を注意深く眺めてみれば個体差、変異ではやはり説明できないと考える。基部が太く短く直線的な嘴、嘴の黄色いパッチ、黄色い足、背の暗灰色、そして尾の黒帯と外側尾羽基部の白等アライソシギ的な特徴が全身に発現していて明らかにオバシギの範疇を逸脱している。単一遺伝子の突然変異で複数の形質に影響が現れることはそれほど珍しいことではないが、それぞれの変異がアライソ的であるという傾向、方向性は単純な変異で説明できるものではない。
以上から、当該シギはコオバシギではなく、アライソシギでもなく、さらにオバシギでもないと考えるのが妥当である。既知の種に該当種が見当たらなければ、新種か雑種かを検討することとなる。新種の可能性はあるだろうか。種が維持されるには少なからぬ個体数が維持される必要がある。オバシギ属等の渡り鳥の場合広範囲の地域で観察採集される機会があるわけで、過去に例がないことからして新種の可能性は限りなくゼロに近い。大形動物の新種はほぼ分布が局所的か隠蔽種(スプリット)である。

交雑の検討。雑種では必ずしも2種の中間的な形質が表現されるわけではない。それはエンドウのメンデリズムの初歩が端的に教えている。たとえば、純系の緑と純系の黄色のマメをかけあわせると黄緑ができるわけでなくすべて黄色になるし、ヘテロの丸のマメ同士を交配すれば丸以外にしわのマメが生まれる。単一の形質に注目すれば、片親の形質のみがそのまま現れることもあれば、両親にまったくない形質が現れることもあるし、もちろん両親の中間的な形質が現れることもある。しかし、複数の形質を勘案すれば、どの種とどの種の雑種か、あるいは単一の遺伝子の突然変異かをある程度予想することは可能と思われる。たとえば、嘴の長さと太さは中間雑種、嘴基部の黄色パッチは母方の優性遺伝子が発現し、体のサイズは父方の優性遺伝子が発現する、などなど。

自然状態で異種の交雑が起こるためには、交配前隔離機構と交配後隔離機構の2つの生殖的隔離がクリアーされなければならない。交配前のバリアにはハビタットの違い、繁殖期のずれ、ディスプレイや種認識の違いなどがある。交配後のバリアは遺伝的に発生が完遂しないしくみである。種分化から時間が経つにしたがい、交配後隔離機構はよりシビアになるが、3種のシギに関してはあまり問題にならないと考える。なぜなら、後述するが種分化からあまり時間が経っていないと思われるから。
分布域はそれぞれ異なるものの、オバ、コオバ、アライソ3種とも繁殖期は6月でありハビタットも高緯度の山地ツンドラで共通している。地理的なバリアを越える飛翔能力も備えている。したがって出会いがありペアリングがうまくいけば、営巣育雛そして成長は可能と思われる。

オバシギxコオバシギ: 当該個体は、嘴の形状がオバxコオバを思わせるし、大きさや生態もその組み合わせで矛盾ないように感じる。両種の渡りの中継地である日本の干潟で、オバ、コオバの混群中に発見されるというシチュエーションにも他の組み合わせよりは肯けるものがある。しかし、嘴基部と足の黄色、背の暗色、尾のパターン等、いかんとも説明しがたい。両種はシベリア北東部で分布の重複があるので出会いは比較的あるかもしれないが、交雑の例はないと思われる。♀の選好性(おそらくオバでは肩羽の赤、コオバでは体部の赤)が異なることが交雑を防いでいるかもしれない。この組み合わせの可能性は極めて低いと思われる。こじつけで、それらの形質(いずれもアライソ的)が両親ですべてへテロであり、アライソ的なそれらの特徴がことごとく劣性形質であり、雑種第1代で劣性遺伝子がすべてホモ接合体となった、と想定すれば説明可能ではある。しかし、そのような劣性遺伝子があったとすると、数十万羽いるといわれるオバシギのなかにかならず劣性ホモがいるはずである。しかし実際にはアライソ的なオバシギもアライソのようなコオバもいない。

アライソシギxコオバシギ: この組み合わせもアラスカのプリンスオブウェールズ岬に分布の重なりがあるので、両種の出会いは少なからずあるかもしれない。当該シギに見られる嘴の形状、基部の黄色、足の黄色(わずかに緑がかった)、広い翼帯、尾のパターン等、この組み合わせで問題ないように感じる。一方で、第1回冬羽の肩羽の濃さ、雨覆のパターン、体サイズ等は説明不可能とまではいえないが、それらすべてをアライソxコオバの組み合わせで説明するのは合理的といえない。オバxコオバ同様、この組み合わせの交雑例はないと思われる。やはり♀の選好性により交雑が回避されているのではないか。

アライソシギxオバシギ: 当該個体が持つ特徴はこの組み合わせで説明できそうだ。体の大きさ、行動、ハビタットはオバの特徴が強く現れている。オバシギほど長くなくアライソほど基部が太くない嘴の形状、オバにしてはやや短い足の長さはアライソとオバの中間的な形質と思われる。嘴基部の黄色いパッチ、肩羽の暗灰色、広く明瞭な白い翼帯、白い上尾筒、黒く太いテールバンドと外側尾羽基部の白はアライソの形質が優性に発現していると考えられる。幼羽雨覆のパターンは独特であるが、アライソ的な形質とオバ的な形質のモザイクで説明が可能と思われる。また両種の夏羽の羽衣のパターンの共通性は種認識に重要と思われ、コオバが関わる雑種よりはるかに生じやすいのではなかろうか。
このように形態面、生態面とも当該個体は雑種アライソシギxオバシギとするのが合理的である。新種の可能性はどうだろうか。交雑から生まれる新種の例もある。しかしオバシギ類は広い範囲を移動するにもかかわらず、当該個体のようなシギがこれまで発見されていないことからして新種説を唱える合理的な理由は見当たらない。
Ujimichiさん、第一発見者Nさんに感謝します
150108改訂
雑種アライソシギxオバシギと思われる中形シギ141018千葉県(Ⅱ)

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不明シギ:雑種アライソシギxオバシギと思われる中形シギ141018千葉県(Ⅱ)
Excerpt: Possible Surfbird x Great Knot hybrid 'Surfknot' molting juvenile 141018 / Great Knot molting juveni..
Weblog: 鴎舞時 / OhmyTime
Tracked: 2015-01-08 21:47

雑種アライソシギxオバシギ幼羽~第1回夏羽141018-150822千葉県
Excerpt: Possible Surfbird x Great Knot hybrid ‘Surfknot’ 141018-150822 Japan. 雑種アライソシギ×オバシギ(通称「アラオバ」)の10カ月間..
Weblog: 鴎舞時 / OhmyTime
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