雑種アライソシギxオバシギと思われる中形シギ141018千葉県(Ⅱ)

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Possible Surfbird x Great Knot hybrid 'Surfknot' molting juvenile 141018 / Great Knot molting juvenile 141018/ Red Knot juvenile 030829 Japan.
承前
雑種アライソシギxオバシギの問題点(1): アライソはアラスカ、オバはシベリア北東部で繁殖する。ベーリング海で隔てられ分布が重ならない。そうしたなかでいったいアライソとオバが出会い交雑することが自然界で起こりうるのか?
アライソが日本で観察されていないことからしてアライソの渡りの乱れはあまりなさそうなので、アライソがオバの繁殖地を訪れることは期待薄かもしれない。であれば、オバの渡りはどうだろうか。Howellらの“Rare Birds of North America”によれば、オバシギは稀ではあるがアラスカ等でおもに5月下旬から6月中旬に観察例がある。1994年5月30日には19羽がアラスカのセントローレンス島で観察されている。オレゴンやウェストヴァージニアでも観察されているので、春の(北)東への渡りでは繁殖域最東端からのオーヴァーシュートは一定数生じており、アラスカ辺りにはそこそこ行っている可能性がある。であれば、アライソとオバシギの間に交雑が起こるにふさわしい場所はアラスカだろう。同書によれば、雑種アライソシギxオバシギ(またはコオバシギ)成鳥の可能性のあるシギが2009年8月2012年8月にサンディエゴで観察されている(幼鳥の観察例はないようだ)。干潟でコオバの群れと共に行動しているように見えるところなど行動面の共通点もありそうだ。千葉個体が成長すればサンディエゴ個体のような成鳥夏羽になるのかもしれない。
アライソ、オバ両種に分布のオーヴァーラップはないが、オバの渡りの東端からのオーヴァーシュートが一定数起きていること、交雑例(と思われる)が2例あることから、この組み合わせの交雑は起こりうると考えられる。

問題点(2): 属間雑種?オバシギ、コオバシギはCalidrisオバシギ属であるのに対し、アライソシギはその独特の形態と生態からから別の属Aphrizaアライソシギ属に、1属1種として分類されている。属どころかその上の別ランクのキョウジョシギ亜科に分類されていたことすらある(HBW)。たしかに嘴の形や短い足等はキョウジョ的ではあるが、これは系統の近さによるものではなく、共通の生態による収斂の結果である。
常識的に考えると、属間雑種の方が属内種間雑種より起きにくい。分化が起きてから時間が経過するほど交配後隔離のバリアがよりシビアになるので、たとえ交尾、そして受精と滞りなく進んだとしても正常な発生が起こらない可能性が高くなる。
しかしこれは、実例があるからだけではなく、系統学的に問題ないと考えられる。Gibson(2010)の核DNA、ミトコンドリアDNA5遺伝子によるチドリ目の系統解析によれば、アライソとコオバは姉妹種であり、アライソ、コオバ、オバ3種で単一クレードを成す(ただしベイズ解析の事後確率は0.83とやや低く、アライソとオバ、あるいはオバとコオバが姉妹の可能性もある)。であるなら、アライソシギ属を有効とするためには、オバシギ属のすべてのシギを別々の属にしないと整合性がない(たとえば、トウネン属とかヨーロッパトウネン属とか)。これでは属というランクの存在理由がなくなる。アライソシギ属は無効とし、オバシギ属に吸収させるのが妥当である。したがって、アライソxオバは属内種間雑種と考えることができるのである。
ちなみにHBWでは、シギの雑種の例が幾つか挙げられているが、その中のひとつ、ヒメウズラシギxコモンシギはこれまでの分類に従えば属間雑種となる。しかしこれもGibson(2010)によれば、コモンシギがオバシギ属に含まれる結果となっていることより、属間でなく属内種間雑種となる。属がいかに恣意的、主観的に決められているかがわかる。

問題点(3): アライソより圧倒的に少数の雑種がアライソさえ迷行していない日本になぜ来たのか?これは難問である。過去の2例もおそらく同郷のアラスカ産コオバとともにアラスカから北米西岸を南下したと考えられる。
想定されるシナリオ。1)アラスカ産のコオバとともに日本へ渡ってきた。アラスカ産のコオバがどの程度ユーラシアへ向かって飛ぶのかは定かでないが可能性はあるだろう。2)単独で西進しオバと合流し日本へ来た。この場合、周囲の多くの鳥と別の方向へ渡ることになると思われるが、これは片親のオバの渡りの本能が雑種で発現したと考えられるのか?にわかには信じ難いが。3)アラスカで交雑した、の前提が誤っていて、シベリアが交雑の地であるなら、オバシギとともに日本へ渡って来たのは納得できる。いずれにしても検証する手立てはほぼないといえる。

結論、当該シギは雑種アライソシギxオバシギとするのが最も合理的である。

探鳥の滋味は辿り着けない核心に如何に接近するかにある。そうした意味でこの出生不詳シギは探鳥家の好奇心と探究心をこの上なく掻き立てるスターである。

改めて、事前に注目すべき特徴を示唆いただいたUjimichiさん(私信)に感謝します。

このシギについてはさらに新たなエントリーを追加する。

雑種アライソシギxオバシギ第1回冬羽、アサリを食う(動画)150105千葉県

150814改訂:誤字等を修正した。






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