採餌か採食か アカゲラ♂採餌(動画)150329千葉県(改訂150311) 

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Great Spotted Woodpecker adult ♂ 150329 Japan.
形状がはっきりしない白く粘性のあるものを食べていた。昆虫の幼虫には見えなかった。

採餌か採食か
鳥が食物を摂取する行動を「採餌」と表記するか、それとも「採食」と表記するか。本ブログ開設の2006年には、少なくとも野鳥分野の出版物では「採食」がすでに一般的だったと思う。そのため当サイトでも、「採餌」にこだわる積極的な理由は見当たらなかったので、「採食」を使ってきた。しかし、「採食」に置換しなければならない積極的な理由が見当たらない。それがないなら先にあった語を使用するのが、より「科学的」な態度ではないか。

生物学では従来、食物(food)を一般的に「餌」と、そして食物を取ること(foraging)を「採餌」と記してきた。
まず生態学の教科書を見てみる。少し前の定番、1991年出版の三島次郎訳オダムの『基礎生態学』に次の記述がある。
捕食者は、純益エネルギーと、をさがし追跡し食べるための時間の間の比を大きくする淘汰圧を受ける。

三島氏は捕食者が追跡して食べる獲物を「餌」と表記している。さらに、食物を採る場所を採餌地域、種が複数ある食物を如何に利用するかを採餌ストラテジーと表記した。一方で彼は、grazingに「採食」を当てている(grazing food chain を採食食物連鎖と訳している同書p95)。
岩城英夫訳の『生態学キーノート』(マッケンジーら、2001年)はどうだろう。
のサイズや採餌する高さを別の次元として考慮すれば、ズアオアトリのニッチを他の多くの種のニッチから分離することができる。

オダムに代わるベゴン(ら)の『生態学』(堀道雄監訳、2003年)には以下の記述がある。
・・捕食者が、どこで何を食べ、そして他の捕食者およびの密度からどのように影響を受けているのか・・

・・「行動生態学」全体の視野の中で、進化生物学者が特に綿密な検討を行っている動物の行動のひとつが「採餌」だ・・p390

現代の生態学の教科書のスタンダード(といってもすでに10年以上たっているのだが)でも、動物の食べ物は「餌」でそれを食べる行動(foraging)は「採餌」なのである。興味深いのは、grazingを「いわゆる植食」とし、グレージングと表記していて、植物の一部だけを食べる植食(草食)動物をグレーザーとしていることである。
では次に、行動学(今では死語に近いか)関連の本から。
日高敏隆、久保和彦訳ローレンツの『攻撃』(新装1985年)ではやはり以下のように、とらえられる食物をえさと記述している。
・・どの魚も、同じえさをとる同種の相手とだけは、きちんと距離を保つ・・


『オックスフォード動物行動学事典』(1993年)でも、Food beggingが乞い、Foragingが採餌とされている。

最近出版された書はどうか。
現代の生物の教科書のスタンダード『キャンベル生物学9版』(2013年)は、foragingを採餌としている。
出版されたばかりの『トンボの生態学』(渡辺守、2015年)でも、採餌が使用されている。
生物学辞典はどうなっているだろうか。
まず、東京化学同人の『生物学辞典』(2010)では、採餌行動(foraging)の項目があり、動物が栄養を体外から取り入れる行動、としている。また、グレーザー(grazer)の項目で、採食者、採食動物ともいう、とし、致死させることなく生物体の一部を消費する生物、としている。そして、摂餌(feeding、ingestion)の項目も掲載されている。
一方で、『岩波生物学辞典第5版』(2013)では、foragingは摂食とされている。1997年の第4版にあった摂餌(feeding)の項目の換わりに摂食が掲載されたかたちである。そして、第4版になかったが5版で新たに載った項目がグレージング(graging)で、喫食、草食、採食を同義としている。別のページで、むしり食いとも記している(4版には喫食の項目があった)。

いよいよ鳥の本。
子供の頃夢中で読んだロイドの『猛禽類』(高野伸二訳、1973年)は、えさ採餌だった。当時のバードウォッチャーのバイブル『野鳥識別ハンドブック』(1980年)でも、オオハクチョウの採餌を、水面えさとり、逆立ちえさとり、としていて、また、死後に出た『フィールドガイド日本の野鳥増補版』(1989年)でも餌、採餌の語が使用されており、高野氏は終始、鳥の食物を餌(えさ)、食べることを採餌と表記していたことがわかる。

鳥本でいつから採餌が採食になったかは今のところ定かではないのだが、『BIRDER』の前身である『日本の生物』1991年2月号(上記高野図鑑の2年後)の桑原和之氏の記事は興味深い。お題が「よく見りゃちがう 餌の取り方 採食行動で識別する―マガモの仲間」である。食べることは採食だが、食べるものは餌なのだ。おそらく1990年前後から採食が使われ始めたと思われる。採餌が採食に置き換わっていく過程で、食物としての餌の語が使われなくなっていったのかもしれない。

このへんの事情を考える上で重要となるのが、2004年に出版された『鳥類学辞典』だ。採食(foraging/feeding)の項で、和田岳氏が以下のように記述しているからである。
・・餌とは飼育している動物などに与えられる食物という意味なので、餌を与えられているわけではない野生動物に採餌という語を使うのは不適当とする考え方もある。

残念ながらこの考え方の出典がない。そもそも、餌とは飼育している動物などに与えられる食物という意味なのであろうか?

ところで、最近の鳥類学の書籍を開いてみたい。
2013年に出た『日本タカ学』(樋口広芳編)では、やはり採食行動が用いられているのだが、採食が選ばれたのは餌の語が不適切だからではない。なぜなら同書で、動物なる語が使用されているからである。

そこで、「餌」の語源を求め、大修館『大漢和辞典』12巻(1959年)を紐解く。1、こなもち、だんご。2、こながき。3、たべる。4、たべもの。5、利益。と続き、11までその意が記載されているのだが、飼育している動物などに与えられる食物の意は見出すことができない。逆に、餌は人様の食べ物だったのである。
ところがその8年後に出版された三省堂『新漢和中辞典』(1967)の餌の意は以下のようになっている。1、動物を飼う食料、飼料、魚をつるとき魚をさそう魚の好物。2、だんご、こなもち。3、食物の総称。4、食べる。5、肉のすじ。与えられる食物としての餌は以前からあったことになる。一方で、生物学、鳥類学では比較的最近、おそらく1990年以降定着したと思われる。生態学、保全生物学でツル、ハクチョウ、そしてカモやハトなど鳥への「給餌」「餌付け」が個体群の絶滅や生態系のかく乱を招くと問題にされるようになったことが、これに関与したと推測しているのだが、実証は宿題としたい。

さて、暫定的な結論。
1) 生物学ではもともと動物の食物の意で「餌」が使用されてきた。
2) 餌の語源に飼育動物に与えられる食物の意味はなく、そうした意味での用法の起源が不明である。
3) grazingなるタームの生物学的な語意が食べること一般から、草食(狭義では草をむしり食うこと)に重心が移っていて、その訳として「採食」を当てることがある。
よって、
「餌」、「採餌」の語は生物学的に不適切ではなく正当である。

しかしながら、言語は種ヒトHomo sapiensの表現型であり、語彙と語意は進化するものであるから、多数者が使用する用法こそが正しい、とするに吝かではない。

Ujimichiさんが2013年に「餌」と「食物」で「餌」の自粛を促す編集者への違和感と拙速な言葉の置換への警戒を記している。

文献を再読する過程で以下の誤りに気付いた。
1)オダム『基礎生態学』p263「・・合衆国の鳥類研究者は3~4年ごとのシマフクロウの侵入がはっきりとわかるほどである。」のシマフクロウはもちろんシロフクロウが正しい。
2)ベゴン『生態学』p1280最適採餌(optimal foradng)はoptimal foraging。




梅に桜
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梅林150326茨城県/ソメイヨシノ開花150329千葉県。

追記200616:「暫定的な結論」の3)gragingをgrazingに訂正した。

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