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zoom RSS ニシチュウジシギとハリオシギの生殖的隔離の強化

<<   作成日時 : 2018/06/30 23:52   >>

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ニシチュウジシギとハリオシギはそっくりなのに(画像中央下)、チュウジシギとハリオシギはそうでもない。これは生物学的に極めて興味深い。
今ではセグロカモメに近縁とされるようになったモンゴルセグロカモメは、同じ中緯度に分布するカスピセグロカモメに近い形質を持つことで、以前は(あるいは今でも)カスピの亜種とされてきた。これは系統が離れていても同様の環境のもとでは似た形質が進化する収斂と呼ばれる現象だ。私はこれまで、ニシチュウジシギとハリオシギが似ているのも収斂の可能性が高いのではないかとにらんでいた。しかし、今回のジシギ懇話会前の小田谷さんとの雑談で、別の可能性を探ることもかなり重要と思った。収斂も面白い現象なのだが、別の可能性もそれに勝るとも劣らないインパクトを持ちうる。
私はジシギ懇話会の発表スライドの「地鴫生物学のあけぼの」の項目c「いかなる選択がはたらいたか解明できる」で、種間交雑を抑制する自然選択による生殖的隔離の強化(単に強化・リインフォースメント)について言及した(というか実は時間がなくスルーせざるを得なかった)。もし、ジシギ類の種分化に強化が検証されれば、ネイチャー級のジャーナルに掲載される価値のある論文が書ける、と以前から思っていたのだが、可能性はさほど高くはないと考えていた。が、十分在り得ると考え直した。
画像

鈴木紀之著『すごい進化』(2017)によれば、「強化は「自然淘汰が生き物の完全性を導く」という適応主義者の信念とマッチ」するので、「多くの進化生態学者に受け入れられてき」た。しかし、「野外ではその証拠となる現象がなかなか発見され」なかったため、「強化が発見されれば、『ネイチャー』や『サイエンス』といった権威ある科学雑誌に報告できるくらいの大ニュースとして迎えられ」た。同書ではその例として、オーストラリアのアマガエルの一種を挙げている。
Conrad J. Hoskinら(2005)によれば、生息地が狭くかつ近縁種に囲まれたカエルの雌は雄のコールを聞き分ける能力が強化されている。一方、広範囲におよぶ生息地の雌には強化が見られなかった。別種の雄に出会う確率の高い地域でみさかいなく交配すれば雑種の可能性が高くなる。雑種は一般的に適応度が低い。したがって、近縁種のコールの微妙な差異を識別する能力が強化されることは適応的となる。しかし、近縁種との出会いがほとんどない地域では、そのような能力は不要でありむしろ能力維持は負担になる。

現在でも種の定義の定番は生物学的種概念である。高校の教科書で扱われる種もこれである。生物学的種概念の根拠となるのが、生殖的隔離である。生殖的隔離は地理的隔離(による遺伝子流動の制限)のあと地質学的時間を経て、漸進的(飛躍しないという意味)な遺伝子の変化で起こる。遺伝子を変化させるのは偶発的な遺伝的浮動か、自然選択である。自然選択は環境への適応に作用するが、生殖的隔離には直接作用するわけではない。
それに対して、強化の場合、自然選択は、非適応的な雑種形成にネガティヴに直接作用する。強化による種分化は急速に(飛躍的に)起こる。浮動の偶然や環境への適応といったまだるっこい漸進的な過程を要しないからである。急速に種分化が起こった場合、遺伝的分化はさほど大きくないと予想される。

私にとって強化といえば、カエルではなく、1997年ネイチャーのマダラヒタキ/シロエリヒタキである。種分化は偶然の産物ではない?(Is speciation no accident?)とnews and viewsで取り上げられたこの論文を私は当時驚きを持って読んだ記憶がある(画像の右端)。20世紀後半、ネイチャーやサイエンスに掲載される生物学に関する研究の多くは、分子生物学であり生命科学であって、進化や種分化という語を見ることはほとんどなかったからである(ちなみにnews and viewsでレビューされる論文を書くのが研究者の夢なのだ)。
マダラヒタキはヨーロッパの北側に分布し、シロエリヒタキは南側に分布する。中間には両種が同所的に分布している。強烈な接合後隔離がすでに形成されているため雑種の卵の3/4は孵化しない。このため雌は雑種を産むことはどうしても避けたい。同所的に分布している個体は、雑種を産む心配のない場所に暮らす異所的集団の個体にはない識別システムを獲得していることが予想された。
異所的分布域の雄は、マダラもシロエリも黒型である。一方、同所的分布域のシロエリ雄は黒型であるが、マダラは茶型である。同所的なマダラの雌はマダラ茶型雄を好むが、驚くべきことに、異所的なマダラ雌は茶型マダラ雄よりシロエリの黒型雄を好む。こうした一連の実験結果から、茶型の雄の羽衣とそれをチョイスする雌の選好性は、雑種を減じる方向に作用する自然選択によって急速に進化したことが示唆されたのである。
この研究のマダラ/シロエリは強化の定番となり、バートンらの『進化 分子・個体・生態系』で取り上げられているし(画像左端)、今年のセンター試験でも出題された(画像中央上)。ちなみに、『進化』では、「まだら模様ヒタキ」と「白黒えりヒタキ」なる何とも奇妙な和名?が当てられている。輪状種のニシヤナギムシクイ/ヤナギムシクイもウグイスの一種とされていて萎えさせられた。たとえ鳥に関心のない訳者でも、生物学に関わる書物でこんなことしてたらだめでしょ。その点、センターの出題者(大学の先生だろうが)はしっかりわきまえていて、考察問題としても適切である。長い前置きはここまで。

ここでジシギ類の分布図たとえばHBW Aliveを眺めてみる。ニシチュウジシギの分布は南北でハリオに挟まれている。一方、チュウジの北にはやはりハリオが、南にはオオジが分布している。こうしたジシギ類の生息地の訳アリの布置は種分化に関心を持つものをワクワクさせる。
バイカル湖周辺地に生息するニシチュウジの雌にしてみるとハリオの雄の侵入は日常的かもしれない。また、沿海州のチュウジ雌は北でハリオの雄に、南でオオジの雄に遭遇している可能性がある。
LeaderとCarey(2003)は、外側尾羽が見えない限り野外ではハリオと(ニシ)チュウジは識別できないと結論付けた。それくらいニシチュウジとハリオは似ている。この類似の原因を収斂ではなく、過去の遺伝子の交流としてみる。そして、雑種の適応度は低下するとする(これは有り得そうだが検証するのは難しそう)。さらに、以下のような分布域があると想定する。異所的西部ハリオ、異所的ニシチュウジ、同所的ハリオとニシチュウジ、そして異所的東部ハリオ、異所的チュウジ、異所的オオジ、同所的東部ハリオとチュウジ、同所的チュウジとオオジ。
それぞれの、雄の形態とディスプレイコール+尾音、さらに雌の選好性を調べる。
そうすれば、ジシギ類に強化とそれに伴う急速な種分化が検証されるかもしれない。

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