ウサギに棒、鳥に三脚(追記191226)

杉元
この棒を
ウサギの頭の
上に投げろ

鳥に襲われると
勘違いして
雪に頭を突っ込んで
動かなくなる        野田サトル(2015)『ゴールデンカムイ1』第6話 迫害

ウサギの習性を
利用した狩猟法は
 アメリカでは
 ラビットスティックと
 呼ばれ

東北マタギにも
ワラを円盤状に編んだ
ものを投げる「ワラダ打ち」などがある                  同書同話


広げた三脚を担いだカメラマンが鳥を飛ばしてしまうのを何度か目撃したことがある。以前カメラマンのIさんとそのしくみについて議論したことがある。私は滑空する猛禽のシルエットと勘違いして逃げているのだろうと考えた。ありきたりな視覚説に満足しないIさんは聴覚説を唱えた。三脚に当たる風が猛禽の羽音に聞こえるのではないか、その証拠に竿を振って音を立てると鳥は逃げる、というのだ。
そこで冒頭の、アイヌの少女アシパのせりふに注目してみる。猛禽はウサギと鳥の共通の天敵である。猛禽の風切音を想起させる音に両者は同様に逃避反応を示すと考えるのは理に適う。投げた棒の音と海風が三脚に当たる音が、猛禽の翼が空を切る音を模す、有り得なくない。
私は何度か三脚で試してみた。しかし、おそらく五感を駆使して身を守ろうとする鳥が逃げる原因を突き止めるのは意外と難しそうである。
ウサギ191221水道橋.jpgJapanese Hare 191221 Japan.

追記191226:
多くの鳥類において、頭部は飛行中の猛禽類を識別する手掛りとして決定的な役割を果たしている。
ティンバーゲンは『セグロカモメの世界』に記す。
彼とローレンツは厚紙でタカにもガンにも見える(左右対称の両翼中央に長短の突起をつけただけの単純な)模型を作り、2本の樹をつないだ針金に沿って模型を移動させる実験を行った(1948年)。短い突起物が先行する方向へ動かしたときだけハイイロガンの雛は逃避反応を解発した。この視覚情報による反応は当初生得的行動と考えられた。しかしティンバーゲンは後年『動物の行動』(1969)で以下のように訂正している。雛はたとえ親鳥であろうと落ち葉であろうと頭上を通過するものには何に対しても伏せる。成長の過程で見慣れたものに対しては反応しなくなる。猛禽に対して慣れが起こらないのは稀にしか見ないからである。本能と思われた警戒反応は実は学習の結果だったのである。
同様なことは聴覚情報に対してもあるだろう。ウサギは鳥に比べ聴覚により頼るであろうから反応もより顕著と想像できる。ウサギほどではないにしろ鳥も視覚のみで敵を察知しているわけではない。背後に眼はないからである。
三脚聴覚説は一考に値する。

ティンバーゲンは模型実験の過程で出合った「経験によって何かを学びとる鳥の能力に関する面白い事例」について次のように記している(『セグロカモメの世界』p333)。
ハイイロガンの或る家族は(中略)、樹に登ろうとしているヒトをそら恐ろしい何かが起こるということに瞬く間に関連づけてしまい、私たちの一人が樹に登るのを目撃するとただちに警戒声を発して、そこから歩き去るのだった。

経験(条件反射といってもいいし学習といってもいい)がいかに行動に影響を与えるのかわかる。
三脚に対する鳥の反応も何らかの学習の結果かもしれない。すぐ思いつくのは猟銃だが、思いもよらぬ何かが原因かもしれない。

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