美の進化 標識タマシギ♀第5回夏羽200425千葉県

標識タマシギ♀200425中沼田 (6).jpgタマシギ200425中沼田 (7).jpg標識タマシギ200425中沼田 (7).jpg
Ringed Greater Painted-snipe♀breeding 200425 Japan.
右跗蹠に金属リング「2968」。Oさんにより、2015年9月1日雌・第一回冬羽として放鳥され2017年9月5日にほぼ同所で再捕獲されている個体と思われる。

鳥の研究者には、根っからの鳥好きと目的の手段として鳥を対象に選択した人の2種類があるようだ。私は前者の書いた本を特にワクワクしながら読む。それでは、どちらがいい研究をするか。それは前者、とはいい切れないと思う。往々にしていい外科医が患者の痛みに共感しない人である(かもしれない)ことを思えば何となくそれが理解できる。躊躇は正確を損なう恐れがあるから。
私は根っからの鳥好きを自認するが、なぜか不思議なことに鳥を研究対象にしようと思ったことは子供の頃からなかった。大学に入って研究室選びをするときにもまたったくなかった。ある意味それは驚くべきことである。多分思うに、鳥は研究対象にならない隣人、家族のようなものだったからか。子供の頃は野鳥は観るものではなく飼うものだった(いまも、野鳥ではないが同居中)。『美の進化』の著者リチャード・O・プラムはまさに根っからの鳥好き、自称進化鳥類学者である。読み終わってしまうのがもったいないのであえて先を急がずちまちまと読んだ、注も引用文献もしっかり目を通した、あーおなかいっぱい、ごちそうさま、といいたい本はそんなにない。

私はずっと生物(学)に関わってきたし進化学会に顔を出したこともあるが、進化学を体系的に習ったことがない。中学高校とダーウィンのダの字も学ばなかった。それは大学でも同様で、実用性の低い分野として無視されていた(若い世代には想像できないかな)。でも独学で、ダーウィンの自然選択と性選択は独立した、場合によると相反する仕組み、と自分なりに理解していた(と思う)。それがいつの間にか、性選択は自然選択の一形態であって生物進化は自然選択で統一的に理解できる、と何となく思い込むようになっていた。こうした考え方はプラムの言葉を借りると新ウォレス主義とされる。
自然選択を独自に発見したウォレスはダーウィンに敬意を表していたが、ダーウィンが主張した自然選択から独立した性選択だけは生涯認めなかった。多くの生物学者は自然選択万能主義者ウォレスに追随した。世の進化に纏わる科学的な出版物はほぼ新ウォレス主義者によって書かれていたので、私がそう思い込んでいたとしても不思議ではない。
ダーウィンは、セイランの雄の羽衣に最も洗練された美を見出したのだが、それには性的魅力としての機能しかなく、他の役には立っていない、と考えた(『美の進化』p36)。
そこで、
雌のタマシギの羽衣の美しさについて語ろう。
濃緑と黒の細かな横斑、同様な褐色と黒の横斑、紫に褐色黒白の規則的とランダムの間の横斑、褐色に金の勾玉。紬や羽二重等高級和服の生地に勝るとも劣らぬ繊細かつ絢爛な美。タマシギの雌の羽のこの美しさ、瞠目するしかない。
これは雌の寄生虫に対する抵抗性の現れなどではなく、雄の審美眼によって創造された。月明かり、星明かりに照らし出される雌の衣(ころも)は雄の眼にいかに映りいかなる情動を生んでいるのか。
画像2は彩度とコントラストを上げているが、雄の眼にはこんな感じで見えているのかもしれない。フラッシュによるマイクロコントラストは、夜行性の鳥の微細な立体構造、文様、色彩の付置を余すことなくまのあたりにさせる。懐中電灯では決して体験できぬ驚異の美だ。一方で、人工の閃光は鳥の生態にとってはこの上ない攪乱の可能性がある。鳥を家族としてきた人間がなぜそんなむごいことをするか、と突っ込みを入れたくなる愛鳥家の閲覧者は少なくないかもしれない。野鳥のフラッシュ撮影についてはいずれ考察する。
さて、
意外にもプラムによれば、タマシギは極端な美を進化させてはいない(同書p428)。その理由として、一妻多夫の鳥は、レック制(一夫多妻)のオスでみられる性的成功の差に比べると、メスの繁殖成功率の最高と最低の差が大きくないことをあげている。きれいではないメスもそこそこ子を産むことができてしまうので極端にきれいなメスは進化しない、ということか。
アメリカ人のプラムにはタマシギの羽衣にさほど美しさは感じられないようだが、日本人の私にはセイラン同様の美しさが感じられる(美の感受性は個人的でありかつ文化にも影響されるだろう)。
鳥の美しさに魅了されてきた私たち鳥屋にとって、極端な美は配偶者の恣意的な選好み(審美眼)によって進化するという、プラムの美の生起仮説は魅力的ではある。しかしながら、美は主観であり、主観を科学する限界も感じる。
posted by seichoudoku at 09:28Comment(0)

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