採餌か採食か(Ⅱ)

ゴイサギ200504上沼田 (2).jpgゴイサギ200504上沼田 (7).jpgBlack-crowned Night Heron 200504 Japan.
以前「採餌か採食か」で、「おそらく1990年前後から採食が使われ始めたと思われる。」と記した。それを確かめるため、手元にある90年前後の『アニマ野生からの声』を再読した。
『アニマ』は平凡社の月刊誌で、監修はナチュラリストの巨頭二人、今西錦司と中西悟堂だった。ウィキペディアには、「発売当初からしばらくの間までは、書店での一般販売はされておらず会員制の雑誌だったが、のちに書店でも販売されるようになった。」とあるが正確ではない。1973年4月の創刊号は書店に置かれた。新聞で発売を知った私はワクワクしながら福生駅前の本屋の店頭で手にしたのだが、期待に反し白黒写真と字が多く、迷ったが結局購入はひかえた。すでに『アニマルライフ』を毎週買っていたので、小学生にはそれ以上の出費は厳しかった。ウィキペディアは続けて、「1993年(平成5年)に休刊。」とあるが、これも正確ではない。94年から年刊別冊太陽Animaとして継続されていたからだ。手元には98年号まである。中西悟堂の影響か、鳥の記事は比較的多かった。自宅に全巻揃っているわけではないので引用に漏れがあると思う。
まず、  
1982年の対談では、中村浩志氏がキセキレイが捕らえる食物を餌と表現している。
山岸―でも共通しているのは水ということだね。これは欠くことができない。
中村―それはやはりなんだろうね。
長谷川―繁殖期にガガンボ、カゲロウ、トビケラ、ハナアブの幼虫、クモなんかを食べています。
82年6月号:「連載⑥ナチュラリストのための野鳥紳士録 山岸哲・長谷川博・中村浩志 キセキレイ」」

「読者の質問箱」に寄せられた高校生の渡り鳥の食物が繁殖地と越冬地でちがうのですかという質問に対する柿沢亨三(山科鳥類研究所)氏の回答に以下の一文がある。
潮の引いた干潟でチュウシャクシギが単独または群れになって採餌しているのを観察すると、くちばしを砂の中や泥の中に入れてさかんに餌をあさっています。
83年5月号:「読者の質問箱」
ちなみに答えはチュウシャクシギなどは餌を変えるが、ツバメなどは変えない、でした。

1986年の「一人占めは損をする?群れで魚を食べるカモメ」には、以下の記述がある。
カモメの仲間が群れになって採餌する光景はおなじみである。
86年8月号ANIMA NEWS
1986年までは、動物の食べ物は「餌」、食べることは「採餌」であった。

採食が出てくるのは1987年からである。G・シャラーに言及した一文を引用する。
年齢と性のちがいによる形態学的特徴、採食行動から見る生態学的研究、日常生活にみる習性のさまざま、群れの構造とその社会学的分析、性行動、攻撃と服従、誇示行動など、ゴリラのすべてを書いた彼の著書『マウンテンゴリラ』は、霊長類学の大御所、カーペンター博士から、「これは誰にも乗りこえることができない大業績だ」と最大級の賛辞を得たほどだった。
87年8月号「立花隆のサル学レポート サルに学ぶヒト⑪山極寿一」

私は、日本のキツツキの分布と生息状況について講演し、ポスターでキツツキ三種類の採食生態の比較に関する私自身の研究を紹介した。
89年7月号「スウェーデンで開かれたキツツキ・シンポジウム」石田健(東大秩父演習林内)

しかしながら、「餌」「採餌」が一掃されてしまったわけではなく、1991年までに徐々に置き換わっていく。
とはいえ、両親のどちらかと行動をともにしながら、ときに合流したりして、外敵からの防御術、採餌方法などを学習していく。
89年10月号「黒装束をまとった森の木こり クマゲラの四季を追う」文=有澤浩(東大富良野演習林)

どんな食べものをどこでどのくらいとっているか―採食習性についての調査
90年5月号「今、野外鳥類学がおもしろい」樋口広芳

この頃は芽吹いたばかりのミズバショウやリュウキンカのかわいらしい花々に見え隠れしながら、採食するオオジシギの姿をよく見かけることができた。
90年5月号「天空を震わせる羽音 オオジシギの出会いから生態の解明まで」重盛究・中村浩志

もちろん重要なのは、をとる場所だけでなく、営巣する場所も手に入れることである。
90年8月号「人里の美しき猛禽 イギリスのメンフクロウを守る」文=マーク・A・ブラジル 訳=丸武志(東京動物園協会)

ちなみに、公園の池などでは夕方暗くなって間もなく、カモたちが採餌のために河原や農耕地、海などをめざして飛び立ってゆく。
91年1月号「カモ見こそ冬の楽しみ 求愛行動から雌の識別まで」文-蓮尾純子

その間に、ヒナは行動域を広げてごみ捨て場や人工の場で食べ物をあさるようになる。そのため、野生での採食習性や環境への順化を理解する上で都合がよい。
91年11月号「ハゲワシよ、砂漠によみがえれ イスラエルの猛禽再導入計画」文=ナダヴ・レヴィ 訳=丸武志

ガンたちは大食漢で一日の多くの時間を採食に費やす…注意していると首を下げて採食しているグループの中に、ときおり首をあげて、あたりをうかかう特定の一羽を見つけることができる。
92年10月号「鳥たちの絆を知る ガンの家族の観察」文=宮林泰彦・呉地正行
以上、雑誌『アニマ』で、「採餌」が「採食」に置き換えられていく過程を確認した。「採食」が使われるようになったのは1987年からである。この頃、「採餌」を「採食」に書き換える何らかの圧力があったと予想される。それが何かはいずれ明らかにしたい。

ところで、
『バイオディバーシティ・シリーズ生物の種多様性』(1996)に、「採餌」「採食」が混在する興味深い論文がある。その一文を引用する。
オオハシモズ科の各種が樹木の度の高さで、樹木のどの部位で、どんな方法で採餌しているのかを知るために、7調査地点(中略)の林の中を歩きまわり、オオハシモズ科の鳥に出会ったらその個体を見失うまで追跡し、その個体が採食すると次の要領で記録した。
96年「動物地理から見た多様性 マダガスカル島の鳥類」山岸哲
この文の直前に「これらのくちばしの形態は、食べているの種類とか、の捕り方を反映していると考えられるが、後略」とあるのだが、「採餌」は論文中に最初の1回だけで、後はすべて「採食」であることから、「採餌」「採食」混在というよりむしろ、意図せず「採餌」を使ってしまったのが実情か。1996年には「採食」が一般的なっていたのだが、以前の習慣がぽろっとでたのかもしれない。

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