ジシギ比較ゲノム学

オオジシギ200722城中 (3).jpgオオジシギ200722城中 (9).jpgオオジシギ200722城中 (6).jpgオオジシギ200722城中 (7).jpgLatham's Snipes molting adult 200722 Japan.
この日は6羽、成鳥の渡りのピークか。撮影は茨城県。


ジシギ類の種分化の解明には、全ゲノム配列の比較が必要である。
近縁種のミトコンドリアDNAを比較すれば系統(母系)は知ることができる。しかし、種分化の詳細な仕組みはわからない。2000年に次世代シーケンサー登場して以来、そのスループットの向上はムーアの法則をしのぐほどといわれる。ヒトゲノム計画以来多くの生物種の全ゲノム配列が決定された。最近は、近縁種のゲノム、例えば、太平洋と日本海のイトヨ東アフリカ三大湖のカワスズメ科魚類を比較して、種分化を解明する試みがなされている。

「ニシチュウジシギとハリオシギの生殖的隔離の強化」で、同所的ハリオとニシチュウジ、同所的東部ハリオとチュウジ、同所的チュウジとオオジとの間で生殖的隔離の強化が起きているはずであると記した。
氷河の拡大に伴う繁殖地の分断により、ギシギ類は離散したレフュージアで種分化したとする。分断中、それぞれの個体群に中立的な変異と選択が少しずつ蓄積される。氷河が後退すれば、それぞれの分布域は拡大して重なる。分化が不十分なら、異種間の交雑は多かれ少なかれ必然的に起こる。二次的接触による交雑で遺伝子流動が起こる。遺伝子の交換が加速すれば種分化は巻き戻される。生殖的隔離の強化がそれを押しとどめる。適応度の低い雑種が生じても自然選択により淘汰される。こうした変遷は形態や生態の比較からだけでは復元は難しい。しかし、ゲノムに歴史は残されている。ハリオシギとニシチュウジシギ、チュウジシギとオオジシギの交雑と生殖的隔離の強化の歴史は各DNAの塩基配列に残されている。それがゲノムの比較で解明されるだろう。

ヴィクトリア湖のシクリッドの種分化をゲノムの比較で解明した寺井洋平氏の方法論を彼の著書『生物多様性の謎に迫る』(2018)で確認する(要約はブロク管理人による)。
・種分化に重要ではない中立の変異は、注目する2種間で多型のまま維持されている。
・種分化に関わる変異は、自然選択または性選択の選択圧を受けるのでそれぞれの種で固定している。p165
・中立な変異は、交雑により2種間を自由に行き来することができる。
・選択された変異は異なる種に移動すると除かれる(強化)。p171
・種分化に関わる遺伝子(の変異)は、低頻度の交雑があるとより検出しやすい。p173

これらの前提から寺井氏は2種のゲノムから種分化に関わる遺伝子を見つける方法を次のようにまとめた。
ゲノム全体から探すべき領域は、
①その領域に存在する多型の座位(ゲノム中のそれぞれの塩基の位置)がどれも二種間で頻度の差が大きく、
②その領域に種間では異なり種内では固定している変異を含む、
という二つの条件が揃った場所です。p173

2種のゲノム間で分化した領域は、縦軸に種間の分化の程度(FST)、横軸にゲノム位置のグラフでピークを示す。近縁のシクリッド2種ではこのような領域はゲノム中に21カ所見出された。領域には、色覚、網膜形成、概日リズム、低酸素耐性に関わる遺伝子が存在した。それらは2種のニッチに適応的な変異と考えられる。

さて、
ジシギの比較ゲノム学的研究はどこから手を付ければよいか。まずは繁殖地(あるいは渡りの中継地)でオオジシギの細胞の採取。種内の多型の頻度を出すためにできるだけ沢山、最低でも10羽、できれば100羽捕る必要がある。そして核ゲノムのシーケンス。ここまでは比較的簡単にできるだろう(予算と時間と人手があればだけど)。次のステップは、オオジシギに分布の接近した東部個体群のチュウジシギの捕獲。中継地よりやはり繁殖地で捕りたい。なぜなら、オオジシギと交雑が起こるのは西部個体群より圧倒的に東部個体群が多いはずだから。そして本州を中継するチュウジシギの繁殖地は確定していないから。難易度は高いが不可能ではないだろう。
ジシギ2種間でどのような領域に差が見られるだろう。ゲノム上のサイトが見つかってもその遺伝子の機能はすぐにはわからないかもしれない。尾羽の発生に関わる(尾羽の数を決定する)遺伝子があり、かつ尾羽が性選択の対象であれば、そここそ種間多様性のピークであろう。ほかにはどのような場所があるだろう、知りたい。



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