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zoom RSS ジシギの種分化を想像する、特にチュウジシギに焦点を当てて (V)(改訂170903)

<<   作成日時 : 2017/08/20 14:03   >>

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承前
これまでのジシギ類の尾羽の考察についておさらいする。
ジシギ類は種分化の過程で尾羽の枚数を段階的に増やした。
雄の尾羽の枚数(と形態)はディスプレイの尾音を決める(影響を与える)。
雌は尾音を聞き分け雄を選ぶ。
雄の尾羽の枚数(と形態)は雌の選好性が決める。
雄の尾羽の枚数に変異が生じても雌は適切な枚数の雄をチョイスする(安定化選択)。
雑種の雄は両種の雌に好まれず適応度は低くなる(生殖隔離の強化)。
雌の尾羽は性選択の対象にならないためコストを低減する方向に変異する。
雌の尾羽の数は雄より少なくなる(傾向を持つ)。
尾羽の枚数(と形態)は性選択だけで決まるとは限らない。音響に影響する生息地の温度や湿度、羽を分解する微生物など複数の要因が選択に関わるかもしれない。

ここで、浦達也さん(2005)(2007)オオジシギの性的二型の研究を振り返る。露出嘴峰長、跗蹠長は幼成とも雌の方が大きい。尾羽長、外側尾羽長については、幼鳥では雌雄差はないが、成鳥では雄の方が長い。尾羽数14枚はすべて雌であり、16枚は74.8%が雌、18枚は82.7%が雄であった。

体の大きさ、尾の長さ、尾の枚数は尾音の大きさと高低に影響すると思われ、性的二型の要因となりうる。体が小さいことは上空で流体力学的に有利になり尾音量を増大させるかもしれない。尾の長さと枚数も音量や音の高低と相関するだろう。雌は尾羽が16枚の雄より18枚の雄を、尾羽長の短い雄より長い雄を選択すると予想される。おそらくこのような雌の選好性によってジシギの共通の祖先は雄の尾の枚数を増やしたと思われる。
ところがチュウジシギが種分化した後では状況は一変する。同所的に分布する場合、オオジの雌は20枚の尾羽を持つオオジ雄と20枚のチュウジ雄を識別しなくてはならない。この時雌の戦略としては二つある。まずは安全策、交雑を避けるために20枚に手を出さない。この戦略は不遇な息子を産まずに済む利益がある。一方で、20枚のオオジシギを選択肢から外すので繁殖機会を減らすコストも抱えることになる。もう一つの戦略は見境なく20枚を受け入れる。雑種を産むリスクはあるが、繁殖機会をとにかく増やすことができる。実際に、後者のような戦略がよく似た近縁種が同じ場所に生殖している時起こる。そうした例が鈴木紀之著『すごい進化』(2017)にある。このようにしてオオジの雄の尾の数の上限はチュウジの出現によって制限される。では、ハリオはどうか。今のところハリオより尾羽の数が多い種はない。したがって、他のジシギとは上限の設定が異なると思われる。物理的強度の制約も大きくなると予想されるが、ハリオの尾羽の枚数の分散はより大きくなるかもしれない。

チュウジの尾羽数はこれまで文献上では18〜26(20または22が普通)とされてきた(Prater, et al. (1977))。一方、小田谷さんが関東で捕獲したチュウジの尾羽は18〜21(20または18が普通)であった。この違いが、サンプル数の少なさが原因ではないとして、齟齬は如何に解消できるか。この差異は地理的変異を示す、というのが最も腑に落ちる仮説である。これだけの差異を地理的変異以外で説明するのは困難である。小田谷さんは大会報告を、今後、性による変異と地理的な変異の両面から、チュウジシギの個体変異が解明されることが期待される、と意味深長に結んでいる。
以下私論を綴る。チュウジの分布はHBW Alive(2017年8月)によれば、繁殖地は中央シベリア南部からモンゴル北部とアムールランド・ウスリーランドである。サハリンも繁殖地かもしれない(Cramp & Simmons(1983))。こうした東西に大きく分断された分布域は如何に成立するか。現在の生物地理は過去の分散と分断で説明できる。分散とは個体群がある地域から別の地域へ移動することである。分断は分散を制限する地理的障壁が形成されることで起こる。プレートテクトニクスによる大陸の分裂、大地の隆起、海水面の上昇による海峡、寒冷化による氷河形成、最近では人為的な攪乱(生息地破壊)等がその要因として考えられる。
チュウジはかつて(氷河期以前の200万年前くらいか)東西両個体群を含む現在よりも広い分布域があったかもしれない。そして地質学的時間を経て環境が変化し中央部分は生息に不適になった。その結果、西部個体群は広い分布域を持ったが、東部個体群の分布は限定された。あるいはもっと短期間、人為的なものかもしれない(可能性は低いが)。輪状種とされてきたニシヤナギムシクイ/ヤナギムシクイ種群の輪には中国で大きなギャップがある。この分布の分断は人為的な森林開発による。
過去の広い分布を仮定しなくても現在の分布は実現可能である。鳥は飛べるので分散能力が高く、他の生物に比べて長距離の移住が可能となる。たとえばLiebers et al(2004)によれば、南半球に広く分布するミナミオオセグロカモメは、ヨーロッパのニシセグロカモメが長距離移住(long-distance colonization)した結果生じた。大西洋のキアシセグロカモメLarus (michahellis) atrantisと黒海の南に分布するL.armenicusの関係も同様の過程で説明できる。ちなみに、colonizationは、Grant & Grant『なぜ・どうして種の数は増えるのか』(2008/2017)で「植民」と訳されたが、移住でいいと思う。環境変化か長距離移住かは不明だが、いずれにしても分布の分断はかなり古いと想像する。

さて、チュウジには尾羽には地理的変異があり、18〜26(20または22が普通)のを持つ個体群と18〜21(20または18が普通)の個体群があるとする。小田谷さんが捕獲した関東のチュウジが東西どちらのチュウジかと問われればより近い東部と考えるの自然であろう。すると、東部個体群の尾羽は18〜21であり、西部個体群は18〜26である。沖縄や香港のチュウジはハリオに似ているが、尾の数を調査すれば、関東より尾羽数の多い個体が増えるかもしれない。関東より西部個体群が中継しやすいと予想されるから。
変異は偶然生じた可能性がある。たとえば、東方へ長距離移住をした最初の小集団にたまたま暗色個体が多かった。結果その子孫が暗色になった。これは創始者効果といわれる。あるいは偶然に頼らず生じたのかもしれない。この差は上限がどのように設定されたかによるのではないか。何らかの要因で、東部個体群の上限の制約が厳しい、または西部個体群で緩和されたと考える。たとえば、尾羽22枚の仮想的なジシギが過去(または現在)、東部個体群と同所的に分布したとする。すると、オオジの尾羽がチュウジに制限されるように22未満に制限されるだろう。仮想的なジシギとは、東部個体群と西部個体群の共通の祖先かもしれない。オオジとチュウジの間隔が他より詰まっているので、22枚のジシギがかつていて、何らかの選択圧で上限を制約されたと考えると腑に落ちる気もする。一方、西部個体群はハリオと同所的に分布するが、ハリオの尾羽は26枚なので、上限の変異の制約はオオジ/チュウジほど強くないだろう。チュウジの雌は、22枚のチュウジの雄と26枚のハリオの雄を区別するのは、オオジの雌が尾羽20枚のオオジの雄と20枚のチュウジの雄を区別するほど難しくはないだろうから。

以上は雌の選好性による性選択で尾の枚数の変化を想像したのだが、自然選択でも実現可能か考えてみる。西部個体群は大陸内部であるのに対して、東部個体群は緯度は違いがないが極東沿岸部である。気温と湿度の差が形質に影響すると考えるのは理に適う。これに関わりそうなのがグロージャーの規則である。湿潤温暖な環境で生活する鳥類はメラニンの合成が促進され暗色を呈す傾向がある。関東のチュウジは黒っぽいが、沖縄のチュウジは白っぽい(あるいは赤っぽい)といわれる。東部個体群が暗色化するのは湿潤温暖への適応かもしれない。湿潤温暖な環境の下では微生物による分解で羽毛の摩耗が激しいとされる。暗色化(メラニズム)は物理的にも生化学的にも羽毛を強化する。外側尾羽も枚数が増えて細くなるほど強度は低下するだろう。湿潤温暖が東部個体群の尾羽数の上限を限定する要因かもしれない。東部個体群と西部個体群の分断はグロージャーの規則が当てはまる程度に古い時代に起こったと予想できる。メラニズムは性的二型にも関わるかもしれない。ディスプレイしない雌や雄の幼鳥は外側尾羽を強化する必要性がない。そのため成鳥雄程暗化しない傾向が予想される。ここで、フィリピンのオオジ論文(2004)に再度触れたい。茂田さんらは、捕獲個体をオオジと同定した根拠として、尾羽数が18枚であることに加え、外側尾羽に白が多かったことを挙げた。チュウジの雌は、尾羽18枚でかつ淡色である可能性がある。小田谷さんのデータのなかった当時の情報のみからの同定は困難であったことが想像される。

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図2にタシギ属の離散的な尾羽数の理想化した度数分布と分岐図を示した。aを見ると二つの点が目に付く。まず、チュウジ西個体群の度数分布の右側(数の多い側)が東個体群より裾野が伸びていることである。この地理的変異には何らかの選択が働いたと思われる。二つ目は、オオジの山とチュウジの山が他の山の間隔に比べて詰まっている、そしてチュウジとハリオの間が間延びしていることである。尾羽が22枚の未知のジシギが過去(または現在)存在した(する)可能性がある。チュウジ西部個体群の分布域には22枚が典型的である地域があるかもしれない。チュウジの亜種は不明だがあり得るのではないか。尾羽数が奇数になることもあるようだ。小田谷さん(2015)のデータによれば、19枚が6個体、21枚が1羽である。奇数の尾羽の発生メカニズムは研究の対象に値すると思われる。種分化前後に尾羽の発生過程が不安定化するとか、枚数の異なる親同士の交雑とか、妄想が膨らむ。

bは尾羽数に注目したタシギ属(アオシギを除く)の分岐図である。これには常識を逸脱しているところがあるかもしれないが、一つの仮説としてあえて示した。ここでは東部個体群をチュウジ、西部個体群をニシチュウジと表記してある。この分岐図では、東部のチュウジの分類階級は種である。ニシチュウジと同種とするとチュウジは側系統になってしまうから。
チュウジとハリオの共通の祖先からまず分化したのが関東で見られるチュウジとし、暗色化や大型化がその系統を特徴づける。東西のチュウジの形態の差を考慮すると、それくらい深い分岐がありそうである。この分岐図では、ニシチュウジがチュウジよりハリオに羽色や大きさ等形態が似ていることも説明可能である。チュウジが分化した後も、ニシチュウジとハリオは種分化していないのだから。この辺は別の解釈が可能である。前掲の図1では、チュウジ東部個体群を?で示した。チュウジとハリオの共通の祖先から、チュウジとニシチュウジの共通の祖先が分化し、その後ニシチュウジの一部が極東へ長距離移住をしてチュウジになったと考える。この図ではチュウジの分類階級は亜種でもよいし、種でもよい(どちらにしても単系統になる)。この方が無難かもしれないが図2bに比べて面白みに欠けるかもしれない。
ちなみにウィルソンの分岐も図1と図2bには違いがある。図1はタシギとウィルソンの形態の類似と現行の分類を考慮してある。図2bのほうがイベント数が少なくオッカムの剃刀に沿う。チュウジやウィルソンの分化がどの時点かは、いずれ分子系統が解決してくれるだろう。

タシギ属の尾羽数の離散的分布のメカニズムと進化の解明は、ヤナギムシクイの種分化研究に匹敵するインパクトがある。まあ、とりあえずその前に、亜種とさえ認識されていないチュウジ東部個体群を種として記載してほしいな。

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Possible Western Swinhoe's Snipe juvenile ニシチュウジシギ?2015年9月27日沖縄県。
関東の暗色のチュウジとは明らかに異質である。香港でのLeader & Carey(2003)観察結果では、チュウジとハリオを野外で識別することは外側尾羽が見えなければ不可能であるとされた。両者はそれほどまでに似ている(それにしたがえばこれもハリオシギの可能性を否定でいないが体形等のjizzからニシチュウジシギ?とした)。
明るい羽色や形態の違い以外にも、換羽が遅い特徴がある。9月下旬ともなれば、関東のチュウジは幼羽を落とし第1回冬羽に換羽している。この個体はほぼ幼羽である。尾のパターンを見てみたい(この記事の最初の画像と同一個体)。

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Pin-tailed Snipe juvenile ハリオシギ2015年9月27日沖縄県町。
ニシチュウジに似ているのは、同様なニッチを共有することで生じた収斂か、それとも共通の祖先から受け継いだ形質か、はたまた遺伝子交流(交雑)の結果か。これについてもいずれ分子系統、系統地理が解決してくれるだろう。

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Possible Eastern Swinhoe's Snipe nonbreeding チュウジシギ2015年9月26日沖縄県。
これは関東で見られるチュウジとして違和感ない。沖縄は東西個体群の渡りの交差点なのだろう。両者の越冬地は共通だろうか。共通であるなら、生まれとは別の個体群について繁殖地で飛んでしまう個体も一定数要るかもしれない。遺伝子流動はありやなしや。

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Possible Western Swinhoe's Snipe breeding ニシチュウジシギ?夏羽2000年4月上旬兵庫県。
関東ではまず見られないとても興味深い個体。渡る先をぜひ知りたい。関西では、春の渡りでニシチュウジも中継するのか。チュウジの渡りの全貌を解明するにはオオジのようなバイオロギングが必要か。

以上の4画像はいづれも渡辺美郎さんが撮影したものをお借りした。トリミングや文字の入力など画像編集は了解を得て私が行った。種の同定も私が行った。誤りや不適切なところがあればすべて私の責任である。

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Possible Western Swinhoe's Snipe juvenile ニシチュウジシギ?2011年8月19日茨城県。
6年前に撮影した、関東では異質なチュウジシギ。チュウジにしては換羽が遅く、幼羽のまま。頭側線に褐色斑がかなり入り、肩羽等の褐色部がやや広くかつ明るくやや赤味が射している。

このチュウジに纏わる連載エッセイの発想は2014年に端を発す。翌年、小田谷さんが自ら捕獲したチュウジの大変興味深いデータを発表した。その頃、渡辺美郎さんのニシチュウジの素晴らしい写真を目にする機会があった。2015年、貴重なその画像をこのブログで使わせていただけないかとお願いした。すぐに快諾して頂き、いざチュウジ/ニシチュウジについて作文しようとすると、どうしてもお借りする画像に釣り合わない。私はジシギの種分化は、最もインパクトのある科学雑誌NatureやScienceに掲載されたヤナギムシクイの種分化の研究に比肩する研究になりうると考えていた。そのために、まずヤナギムシクイを片付けなければならなかった。チュウジ/ニシチュウジはいつしか義務のように肩の荷になり始めた。そしてだらだらと2年が経過した。しかし、重い腰を上げねばならなくなった。小田谷さんが今秋の日本鳥学会でジシギに纏わる自由集会を企画したからである。残念ながら集会に参加できそうにない。その代わりこの場で、これまでジシギについてあれこれ妄想してきたことと渡辺さんの貴重な画像を公開したい。

素晴らしい画像を惜しげもなく貸して頂き、2年もの長きにわたり待ち続けて頂いただけでなく、辛抱強く勇気づけまでしてくださった渡辺さんにはいくら感謝しても足らない。そして、なによりごく身近なところでエキサイティングな探究を継続し、刺激を与え続けてくれる小田谷さんに感謝する。お二人無くして本エントリーはなかった。
小田谷さん、渡辺さん、岸さん、明日香さんをはじめ幾多の鳥仲間に感謝!

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改訂170903: 2000年神戸個体をjuvenileからbreedingに変更した。最後の画像とそのキャプションを追加した。
改訂170909: 図2bその側系統、図1の単系統の部分を追加した。
改訂171022: 最初の画像を同一個体の別の画像に入れ替えた。「ニシチュウジシギ?2015年9月27日沖縄県」のキャプションの2つの( )内の文を追加した。

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