ヤナギムシクイは輪状種ではない!?(Ⅰ)

ヤナギムシクイは輪状種の有名な例の一つとされてきた。輪状種とは、生育できない地域の周囲を取り囲むように分布域を拡大した生物種がその両端で接触した時交雑不能となった状態である。種分化には通常地理的隔離が必要とされる。輪状種は、地理的隔離がなくても種分化が起こりうることを示している。
Irwinらによる輪状種としてのヤナギムシクイの研究を振り返り、ヤナギムシクイの種分化と分類について考察した。

(ニシ)ヤナギムシクイの和名
Greenish Warbler Phylloscopus trochiloidesの和名は従来ヤナギムシクイとされてきた(例えば、コンサイス鳥名事典(1988)、世界鳥類名検索辞典(1992))。近年、P.trochiloidesの1亜種とされていたplumbeitarsusを、別種に分離(スプリット)するのが欧米で一般的となってきた。茂田良光さんはBIRDER(2011年3月号)で、Greenish Warbler P.trochiloidesをニシヤナギムシクイ(新称)、分布域が日本により近いTwo-barred Warbler P.plumbeitarsusをヤナギムシクイとした。
これに先立って590図鑑(2000)で、大西敏一さんは従来通り前者をヤナギムシクイ、後者をフタオビムシクイ(新称)とした。後者は英名の訳語であり、英文と和文での両種の対応関係が混乱しにくい利点がある。また、より後に見出された種が先行種名を形容することで命名されることは自然な流れと考えられる。なにより、両者の形態的特徴の差異も示している。10年以上、フタオビに慣れ親しんだこともあり、Two-barredをただヤナギとすることになかなか慣れず、英文と和文を並べて読むたび、あれどっちだっけ、となる。
こうした状況は、セグロカモメにもある。日本のセグロカモメはこれまで、北極海を取り巻く広い分布域を持つLarus argentatusの一亜種L.a.vegaeとされてきた。HBW(1996)や日本鳥類目録改訂第7版(2012)でもそうだ。しかし、2000年代初頭の分子系統学的研究の成果やOlsen & Larsson(2003)がGullsでVega Gull L.vegaeとして独立種としたことにより、欧米では少なくともヨーロッパ産セグロカモメとは別種であるとすることが多くなっている。HBW Alive(2017年8月)のように、アメリカ産セグロカモメの亜種とすることもある。日本で普通に見られるセグロカモメをことさらベガセグロカモメとかアメリカセグロカモメ(亜種セグロカモメ)と呼ぶのは煩わしい。今後、独立種L.vegaeとされても、今まで通りセグロカモメとするのが自然である。セグロカモメのこのような状況を鑑みれば、一度は馴染んだTwo-barred=フタオビではあるが、Two-barred=ヤナギムシクイとするのは一理ある。
以下、P.trochiloidesをニシヤナギムシクイ、P.plumbeitarsusをヤナギムシクイとする。また、plumbeitarsus同様P.trochiloidesの1亜種とされていたGreen Warbler P.nitidusはミドリムシクイとする。

(ニシ)ヤナギムシクイの分類
Greenish WarblerP.trochiloidesは、1837年、Sundevallによりタイプ産地インドのカルカッタでAcanthiza trochiloidesとして記載された。
Svensson(1992/2011)「ヨーロッパ産スズメ目の識別ガイド」は、Ticehurst(1938)に従い、Greenish Warbler Phylloscopus trochiloidesを分布と形態の差異から、①nitidus、②viridanus、③ludlowi、④trochiloides、⑤obscuratus、⑥plumbeitarsusの6亜種に分けるのが妥当であるとしている。
Albrecht(1984)は、①nitidusと②viridanusは囀りが異なることから、①nitidusを独立種Green Warblerとした。これに対しSvenssonは、②viridanusの囀りの個体差の幅が考慮されていないことは明らかとした。また、⑥plumbeitarsusは、②viridanusと分布が重複しながらも交雑がないことから別種とする考えに対しても、疑問を呈した。そして、最近の野外観察から、三者①②③は、囀り、地鳴き、動態、生息域がほぼ同一であるから、別種にする妥当性がないとした。

HBW Alive(2017年8月)は、Greenish WarblerP.trochiloidesについて、分類学的位置は不明とした。P.nitidusと同種とされることがあるとしたうえで、ミトコンドリアDNAでは亜種と種の中間とした。同様にP.plumbeitarsusと同種とされることがあるとし、ミトコンドリアDNAと囀りの違いから別種とするのが妥当とした。P.trochiloidesに4亜種、②viridanus、③ludlowi、④trochiloides、⑤obscuratusを認めた。
nitidusを分類学的位置は不明としながらもGreen Leaf-warblerとして独立種とし、亜種は認められないとした。また⑥plumbeitarsusをTwo-barred Warblerとして独立種とした。P.trochiloidesと同種とされることがあるが、囀りの再生実験で両者が他者の音源を認識しなかったこと、同所的分布域で両者が別種として行動することから、別種とするのが妥当とした。

目録第7版では、P.plumbeitarsusを種ヤナギムシクイとした一方で、P.trochiloide trochiloideを種ニシヤナギムシクイ亜種ニシヤナギムシクイとして検討種とした。検討中とした理由を目録編集委員会は、日本産鳥類記録委員会(2005)では、P.trochiloideをヤナギムシクイ、P.plumbeitarsusをフタオビヤナギムシクイと記述しているが、目録掲載の根拠となる出版物がなかったため、としている。

ニシヤナギムシクイは多系統である
以上を踏まえて、ここからは(ニシ)ヤナギムシクイの分類について私見を記す。Irwin et al(2001a)(2001b)によるミトコンドリアDNA(コントロール領域とND6遺伝子)の系統解析の結果を図1aに示した。
画像
これを見ると、西クレード①nitidus、②viridanus、③ludlowiと東クレード④trochiloides、⑤obscuratus、⑥plumbeitarsusとの間に深い分岐があるのがわかる。ミトコンドリアDNAの塩基の置換速度(2%/100万年)から、両クレードの分岐は200-300万年前に遡る。この事実から、この二つのクレードをそれぞれ別種とするのは分岐論的に合理的である。その場合、ニシヤナギムシクイに3亜種、ヤナギムシクイに3亜種を認めることになる。
ここで、DNA、形態、行動、地理の差異から、①nitidusを種ミドリムシクイに格上げするのが妥当とする。そうなると、②viridanus、③ludlowiをまとめたクレードを種としなければ整合しない。現状でそのような分類をする研究者は一人もいない。
同様に、⑥plumbeitarsusを種ヤナギムシクイとするのが妥当とする。すると、系統樹から導かれる種がすべて単系統になって分岐論的に妥当するためには、東クレードを3種に分けないといけなくなる。なぜなら、ミトンドリアDNAの分子系統では分解できない短期間に3系統が分岐しているから。
一方、世界のニシヤナギムシクイの分類の趨勢は、HBW Aliveに見られるように、①nitidusと⑥plumbeitarsusは別種とし、それ以外②~⑤をニシヤナギムシクイの亜種とまとめてしまう。ニシヤナギムシクイのこのような状態は多系統と呼ばれる。単系統を旨とする現代の系統学では、このような分類は妥当でない。では、どのように分類するのがよいか考えてみる。
図1aが種の分化を真に忠実に表しているとするなら、①nitidus、⑥plumbeitarsusを別種とすることを前提にすると、上記のように西クレードを2種(または3種)、東クレードを3種に分けるしかない。
長年、(ニシ)ヤナギムシクイの種分化を追求してきたIrwinらは(ニシ)ヤナギムシクイこそが輪状種であると主張してきた。輪状種の遺伝的分化は漸進的であり、両端同士以外、隣接個体群同士はどの地域でも交配可能である。したがって、輪のどこに切れ目を入れても恣意的にならざるを得ない。恣意的に5種、または6種に分ける生物学的意義がどこにあろう(勿論6亜種に分けるのも恣意的である)。こうした状況では、恣意的な切れ目を1か所入れて、2種とするのが最も合理的ではなかろうか。もちろんその一か所の切断面は東西クレードを分かつカシミールである。
以下、輪状種について概観し、Irwinらの研究を振り返った後で、もう一度、(ニシ)ヤナギムシクイの分類について再考する。
続く

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