夜の鳥の赤い目 ー 赤目現象の原因について考察する

Short-eared Owl 200315 Japan.
夜の鳥の眼は血が滴る如くに赤い、フラッシュに瞳孔が赤く染まることは鳥に限らないけれども。俗にいう赤目現象は網膜の血管に起因するとされることが多いようだ。たとえばウィキペディアには、
フラッシュの光は高速であるため、目の虹彩によって瞳孔を閉じる時間がない。そのため、光は血管が多い網膜に直接届き、光で照らされた網膜が写真に写され、赤くなる。
とある。また、知恵袋に、
ロドプシンは光を浴びると即座に退色しますので赤目の原因ではない。
とする回答がある。これらの記述はいずれも正しくない。

まず、言うまでもないことではあるが血管には色はない。色があるのは管内を通過する赤血球に含まれるヘモグロビンである。酸素ヘモグロビンの吸収スペクトルの可視光でのピークは542nm(緑色光)と577nm(黄色光)であり、赤色光はほとんど吸収されない。なので赤く見える。
私は1980年代、血管に存在するだろうと思われるある物質が眼のどこに多いかブタの眼を使って調べていた。ピンク色の網膜にその物質はほとんどなかった。一方予想通りに脈絡膜と毛様体にはかなりあることが判明した。これは眼における血管の分布を反映している。網膜に血管は多くないのだ。その後方で裏打ちする脈絡膜に比べればないに等しい。なので赤目現象に寄与しうるヘモグロビンの赤は脈絡膜由来が主である。
そもそも網膜は光を受容する組織であるから理想的には血管(を通る赤血球内のヘモグロビン)はないほうがいい。特に光の入り口である網膜の前面にはないほうがいい。なのでガラス体側にある神経節細胞とその軸索が消費する酸素等を供給する血管が最小限配置されるのみである。そのかわり視細胞を文字通りに後方支援する脈絡膜には血管の少ない網膜を補償する多量の血管が分布するのだ。
ちなみに赤目現象への関与は少ないと思われるが、毛様体に血管が多いのにも理由がある。網膜の前面に血管は少ないのだが、その前のガラス体、その前の水晶体にはそもそも血管がない。まさに透き通る。光学的には理想の状態ではあるが、生体を構成する組織である以上多少なりとも代謝はある。血液に代わって房水がそれを担う。房水のもとは血しょうである。房水を作るのが毛様体なので、そこに血管が集中するのは理に適うわけである。私が追いかけていたのは房水を排出することに関わると推測されたANP受容体だ。眼のANPは緑内障に関わるので、私の研究もささやかながら世の人のためになったかもしれない(おっと脱線)。

さて、
眼は光を受容するために特化された器官である。そこでの物質レベルの主役は、網膜の視細胞で光を受容するロドプシンというタンパク質であり、ヘモグロビンは従者といえるかもしれない。視細胞の錐体細胞には3原色RGBに対するオプシンが含まれ、桿体細胞にはロドプシンが含まれる。錐体は黄斑に局在するので、赤目に主に関与するのは網膜に広く分布する桿体中のロドプシンである。ロドプシンの可視光の吸収スペクトルのピークは、発色団の11-cis-レチナールがレチノール(ヴィタミンA)に変わる過程で多段階に変化する。生化学辞典、ストライヤー生化学によれば以下のように変化する(その中間体へ変化するまでの期間を10の指数で、吸収極大波長をnmで示した)。
ロドプシン500(視紅)→-13フォトロドプシン570→-11バソロドプシン535→-8ルミロドプシン479→-5メタロドプシンⅠ478→-2メタロドプシンⅡ380→2メタロドプシンⅢ465(→全trans-レチナール(視黄)→レチノール(視白)

フラッシュの発光時間は10-4秒のオーダーである。したがってカメラの撮像素子に感光するのはロドプシンからメタロドプシンⅠまでのすべての中間体の発色の積分である。ロドプシンは確かに退色しいずれ無色になるがフラッシュの発光時間に退色はしない。したとしても発光時間中の発色の経過が積算されるので何も映らないことはないのである。それではロドプシンは何色に写るのか。ロドプシン、フォトロドプシン、バソロドプシン、ルミロドプシン、メタロドプシンⅠのそれぞれの吸収スペクトルの波長の色は、青緑、黄緑、緑、青緑、青である。眼に見えるのはその補色である、赤、紫、赤紫、赤、黄橙である。これらの積算となるが律速段階は10-2秒かかるフォトロドプシンからバソロドプシンであるから、紫がかった赤になると想像できる。
それでは結論。赤目現象の主な原因は脈絡膜のヘモグロビンと網膜のロドプシンである
ヘモグロビンとロドプシンのどちらがより赤目に貢献しているのか。生体での眼球の瞳孔部分の単位体積(あるいは面積)当たりの両タンパク質のモル濃度(モル数)が分かれば推測できるだろう。眼球を使った実験で検証するには、血液を抜いていないものと抜いたもので撮影する必要がある。生理食塩水を灌流して赤目が減じれば、ヘモグロビンが優勢であり、減じなければロドプシンが優勢ということになる。

夜行性の鳥は昼行性の鳥より桿体が多いとされる(例えば岩堀修明著『感覚器の進化』)。暗室で、両者をフラッシュ撮影して赤目現象を比較すれば、ロドプシンの多少と赤目への関与がある程度推測できるかもしれない。

コミミズク200315水道橋 (6).jpgShort-eared Owl 200315 Japan.
コミミズクの瞳孔はまさに真っ赤。血の色であるといわれれば説得力はある。

ヤマシギ瞳孔200105千間橋 (5).jpgEurasian Woodcock adult 200105 Japan.
それに対してこのヤマシギの瞳孔はやや紫がかったバラ色だ。これこそロドプシンの色といわれればこれも説得力がある。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
面白い 面白い

この記事へのコメント